全長263メートル、史上最大の戦艦大和。その象徴といえる口径46センチの主砲を製造した「旋盤(せんばん)」と呼ばれる工作機械が役目を終え、兵庫県明石市のメーカーに置かれている。それを保存展示するため、広島県呉市の市立博物館「大和ミュージアム」が寄付を募ったところ、わずか1カ月で目標額の2倍、約2億円が集まった。
* * *
「まったく予想しなかった展開ですね。北海道から沖縄県まで、ほんとうに全国から寄付をいただきました」
大和ミュージアム学芸課の兼光賢課長は笑顔でこう語る。
大和ミュージアムは2005年に開館。兼光さんは「開館準備中、旋盤が『きしろ』にあることを知り、寄贈を打診したんですが、当時はまだ現役でしたので断られました」と一度断念したことを語る。「きしろ」とは、兵庫県明石市にある大型機械部品の加工会社だ。
その後、旋盤は13年に稼働を停止。昨年、きしろから博物館に寄贈の申し出があり、話が進んだという。
ちなみに、「旋盤」というのは筒状の部品の外側を加工する機械で、筒の両端を保持して回転させ、それにバイトと呼ばれる刃物を横から押し当て、削っていく。旋盤の重さは約219トン。丸棒を回転させる巨大な「面盤」は、まるでトンネルを掘削するシールドマシンのようだ。
戦後、破壊を免れたこの旋盤は1953年に神戸製鋼所に払い下げられ、96年に「きしろ」に買い取られたという経緯がある。
■21時間で1億円を突破
博物館への寄贈を受けて、呉市議会では旋盤の海上輸送や展示場建設の費用として、1億5000万円を盛り込んだ予算が可決された。
ところが、新型コロナ感染症対策の費用が膨らみ、旋盤の展示に必要な予算は枯渇。そこで博物館が試みたのが、クラウドファンディングを通じた資金集めだった。目標額は2カ月間で1億円に設定した。
「8月3日午前9時にスタートして、翌日午前6時には1億円を突破しました。21時間。1日もかかりませんでした」と、兼光さんは驚きの声を上げる。