三つ目は労働組合の弱体化だ。「労働組合や従業員は雇用維持を優先して経営側に賃上げを強く要求してこなかった」(山田久・日本総合研究所副理事長)。

 四つ目は、大企業が雇用維持を優先し続けたことで、中小企業に大企業から人材があまり移動しなかったことだ。そのため、再編も進まず、生産性が上昇しなかった。生産性が上昇しなければ、経営者は賃金を上げることをためらう。

 五つ目は、賃金と個人消費の停滞の悪循環だ。賃金が上昇しなかったことで、個人消費が拡大せず国内市場も拡大しなかった。だから、国内の売上高が伸びないために、企業が国内での賃金を抑制するという悪循環も続いてしまった。

 他の主要国では、日本より雇用が流動化している分、日本のような賃金の抑制は起きず、人材の移動は生産性向上につながった。

■韓国に負けた理由は
「雇用の流動性」の差

 実は韓国との比較でも、雇用の流動性の違いが格差につながっている。

 日本型雇用の3本の柱は、年功序列賃金、終身雇用制、企業別組合だった。以前は、韓国も日本型雇用と同様の雇用形態が多くの企業で見られていた。

 しかし、民主化が進展した1990年代以降、企業別組合から産業別組合へと形態が変わっていった。また、IMF(国際通貨基金)に支援を求めるに至った金融危機に陥った98年以降は、雇用規制が緩和され、流動化が進んだ。その一方で、労働組合は経営に対して強い姿勢で臨むこともあり、賃金の引き上げは続いてきた。そのため、韓国に平均賃金で抜かれてしまったと考えられる。

 日本において、雇用の流動化を加速することは難しい。それでも今後、諸外国との賃金格差を縮めるには、格差の実態を認識した上で「絶対額で賃金を議論すること」(佐藤氏)も必要だろう。加えて、仕事内容と賃金をリンクさせるジョブ型雇用の導入も検討するべきだろう。

Key Visual by Noriyo Shinoda, Graphic:Daddy’s Home

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