1年ほどかけてタイからキルギスまでアジア諸国を巡った。
「バックパッカー時代は『旅写真』というイメージでスナップ写真を撮影していた。いまでも旅の写真はすごく好きなんですが、次第に何かテーマを決めてドキュメンタリーを撮りたいな、と思うようになった」
17年に帰国すると、写真館に勤めながら、休暇を利用して中国の東チベット地域を訪れた。しかし、公安警察の目が年々厳しくなり、遊牧民にレンズを向けても撮影を拒否されることが増えていった。
本格的にダウ船を探し始めたのはそのころだった。
■Googleマップで見つけた港町
「実はこういう本がありまして」と言い、前田さんは取材記『NHK 海のシルクロード 第2巻 ハッピーアラビア/帆走、シンドバッドの船』(日本放送出版協会)を見せてくれた。
「小学生のころテレビで見たダウ船の印象がずっと頭に残っていました。大人になってからも、まだあるのかな、と思っていたら、いまでも現役で使われていることがわかったんです。じゃあ、どこにあるのか? 調べ始めた」
本には番組の取材班がUAEのドバイからにパキスタンのカラチまでダウで旅をした様子が詳しく書かれていた。「でもいま、カラチの港は相当治安が悪いらしいんです」。
撮影の実現性を考え、前田さんが目を向けたのはインドだった。
「地図を広げたとき思ったんです。ダウは交易や漁業でインド洋をめぐっていた。ならばインドにもダウの拠点があるんじゃないか、と」
ところが、いろいろな本を調べてはみたものの、インドのダウの情報はまったく見つからない。
そこで活用したのはGoogleマップの航空写真だった。海岸線を拡大してしらみつぶしに探しまわった。そして見つけたのがムンバイの北西約450キロにある港町、ポルバンダルだった。
「最初、港っぽい地形が目についたんです。拡大すると、細長い入り江と港が見えてきた。そこが船だまりになっていて、びっしりとダウがとまっていた。近くの陸上にもダウが何隻も置かれていて、船を造っているか、整備していることわかった。ここに行けば間違いなく撮れるな、と思いました」
■毎日、魚まみれの取材
2年ほど勤めた写真館を退職して、インドを訪れたのは19年12月。
まず、バックパッカー時代に訪れたジャイプール郊外の染め物工場を取材し、年が明けると、ポルバンダルへ向かった。