水俣病の悲劇を世界に伝えた伝説の写真家、ユージン・スミスさんを題材にハリウッド俳優のジョニー・デップが演じた映画「MINAMATA-ミナマタ-」が9月23日から全国公開される。だが、上映実行委員会が後援を求めたのに対して水俣市は「史実に即したものか分からず、制作者の意図やねらいが不明」として、これを断った。この映画をめぐっては、市民の複雑な感情が混じり合い、波紋が広がっている。
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映画の公開に先立ち、8月21日には水俣市で先行上映会が行われる。配給のロングライドの担当者は、今年4月に水俣市の高岡利治市長に面会。6月には完成した映画を市に送っているというが、前述のように、市はこの映画に対して前向きな姿勢ではない。
市が出したコメントについて詳しい話を聞こうと、市立水俣病資料館の館長を務める上田敬祐・市環境課長に繰り返したずねたものの、「お答えしたとおりで、それ以上は何もありません」と口を閉ざした。
■いまも多くの人がチッソで働く
この反応に対して、上映実行委員会の麻生耕平副委員長は水俣病に対する市民の複雑な感情を踏まえたうえで、こう語る。
「後援をいただけない可能性も考えていましたし、後援がないこと=上映ができないということではまったくありません。駐車場の貸し出しなど、上映がスムーズにいくご配慮をいただいています」
水俣病が公式に確認されてから今年で65年。
しかし、患者らの認定や補償をめぐる裁判は終わりが見えない。
病気の原因となったメチル水銀を排出したチッソはいまも地元の有力企業であり、関連会社も含めて市内の多くの人が働いている。そのことが関係者の口を重くする。
映画の原案となったユージンさんの写真集『MINAMATA』には患者たちが偏見の目で見られ、孤立無援だったことが赤裸々に書かれている。チッソ支持者はこう言い放つ。
<患者さん、会社を粉砕して水俣に何が残るというのです! 私たちの明日の生活をだれか保証してくれるとでもいうのですか?>
さらに胸をえぐるような誹謗(ひぼう)中傷の言葉が患者たちにぶつけられた。