『料理の時間』
朝日新聞出版より発売中
アエラスタイルマガジンで何年も続けていた連載が、『料理の時間』という一冊にまとまりました。元のタイトルは「料理の言葉」。料理と向き合うための、料理することに自分なりの解釈と納得する理由を見つけるための「言葉」を、レシピと写真に込めた連載でした。
週末くらいは料理をして、家族や友人にふるまったり、ちょっと褒められたりと、料理を息抜きにしたい男性向けの連載です。今やよく聞く料理男子という言い方もあるくらいですが、自然と趣味になったという場合は別で、料理なんてできないと思っている人も、意識すべき時代だというのは、連載が始まる10年以上前から思っていたことです。
例えば、キャベツが目の前にあって、空腹な自分と周りの人たちがいて、何かしら食べる必要があるとき、何もできずに呆然とするか、それならと鍋を調達し、キャベツを煮てお味噌汁を作れるかどうかの差は大きなもの。というような文章を書きました。楽しみや義務だけではなく、あなたのサバイバルでもあるのだよ、というメッセージです。実際、東日本大震災以降、度重なる事故や災害の多さに、料理なんてと知らぬふりをしていられない状況が現実の近くにあることがわかります。
それだけではなく、料理は物事の組み立てを知る機会でもあると思います。近頃、重要だと耳にすることが多いプログラミングという言葉。まさに、料理の成り立ちはプログラミングそのもの。幾つかの料理を組み合わせた献立でなくても、例えば一つの料理を作る場合も同じこと。玉ねぎ、人参、豚肉、じゃがいもと、皆さんがよく知るカレーを作るとしましょう。手順を考えず、玉ねぎを刻まずに豚肉だけを炒めてしまったら、煮くずれしやすいじゃがいもを先に入れてしまったらどうなるか。自分のイメージのカレーにするには、素材のキャラクターを考え、ひと皿に収まる料理の構成を思い描き、想像を巡らせて取りかかる、というわけです。今日はどんなタイプのカレーにして、合わせて食べるのはお米なのか、ナンのようなパンなのか、お米ならぱらっとしているのか。十分に準備していても失敗はあるのですから、そこが料理の難しさと面白いところ。
そんな面倒なことを、と思う人もいるかもしれませんが、すべての料理をマスターしようという話ではありません。何か一つ、作るのが好き、食べるのも好き、という一品を知ろう、という料理の勧めなのです。見当がつくことが増えるのは気分のいいことでもありますし、一つから二つ、三つと少しずつ広がることは確か。やってみて損はない、本当は極めて身近な料理という分野です。