連載を続けて今に至る間に、世界は大きく変わりました。確かに、コロナ禍という厄介な事態が続き、いつ終わるのか終わらないのかもわからない、厳しさがあります。自分のことを考えても、未だ最低限の行動範囲に止まっています。その中で自然とできた時間は、少しテンポを緩めることにも繋がり、ごくごく身近なあれこれに目を向けることにもなりました。無理をしないで済む状況に少しだけほっとしたのも本音ですが、本心で向き合うべきものが浮かび上がってきたように感じます。それは大きく変わったのではなく、本来の姿であった気もしています。
料理を生業にしていながら、どこまで素材を料理(加工)すべきか?などと考えることも多くなりました。パンを作るようになったとか、家で料理する人が増えたという世間の話とは逆というわけです。なぜ、そんなことを考えるかといえば、過去に戻るわけにはいかないからです。飽食の時代とは随分古びたような言葉ですが、未だ作りすぎ食べすぎは続いていて、元に戻ろうとする力は働いているけれど、それこそが変わって次に行くものなのではと思います。自分はどんな食べ物を取捨選択するのか。その判断は、料理するかどうかで大きな違いが出ると考えています。
今回の本は、人が集うことに自由な時代から始まったものです。その後、料理を囲む時間を、今度は自分に向けていく番なのではないかという結論に行き着きました。それがこれからの提案、自分のために料理をするという基本に立ち返るガイドというわけです。本書の前書きでも触れましたが、自分で作ることは自分を楽にする方法でもあります。そして自分を安心させる手立て。手順を軽く組み立てて取りかかる料理が日常の一部になれば、その時間は心を落ち着かせる安定剤にもなり、時には小さな驚きを与えてくれる未知への冒険にもなります。それは人から与えられるものではなく、自分の中に湧き起こるもの。まずは自分のために。やがて周りの誰かのためになっていきます。
そんな料理の時間を過ごすあなたに、知って欲しい料理がこの一冊に詰まっています。