2013年2月 那覇市 「ここら辺に観光の人は来ないよ」と言われた(撮影:鷲尾倫夫)
2013年2月 那覇市 「ここら辺に観光の人は来ないよ」と言われた(撮影:鷲尾倫夫)

 しかし、このような体験談を聞くことができたのはごくわずかだった。

「沖縄を撮り始めたとき、おばあさんに戦争のことを聞くわけです。そうすると、『腹が減って』とか、話をする人もいる。でも、大概は『忘れたさ』と言うんです。ぼくにはそれが『嫌だ』と言っているように感じた」

 そのことが、すごく頭に引っかかった。

「沖縄戦の手記を読むと証言が断定的に書いてあるじゃないですか。ところが実際に話を聞くと、なんか違う」

 なぜそうなのか? 理解できるようになったのは、ある日、衝動的にチビチリガマ(読谷村)という自然洞窟で一晩を過ごしてからだった。

「真っ暗闇のなかで、もう頭の中にいろいろなことが走ったんですけど。あの怖さの中で、ああだった、こうだったという記憶の残り方はしない、ということがわかったんです。そこで、自分が変わったというか、沖縄の見え方が変わった。それから戦争の話は一切聞かなくなった」

2015年5月 喜屋武 糸満市 ハーレー(ボート)競技に夢中のオバー(撮影:鷲尾倫夫)
2015年5月 喜屋武 糸満市 ハーレー(ボート)競技に夢中のオバー(撮影:鷲尾倫夫)

■「ぼくみたいな嫌なジジイはいない」

 撮影のテーマを戦争体験者から沖縄の日常に切り替えた。

「その写真で何か、沖縄を語れないかと。そう思ったらアメリカ兵だろうが平気でね、撮れるんですよ。すると、日本はすごくいい、だから息子を向こうに帰したくないとか、そういう話も出てくる。カメラはね、そういう道具なんですよ」

 路線バスに乗ってさまざまな場所を訪れた。「ここら辺には観光の人は来ないよ」と、おじいさんに言われつつ、その姿をカメラに収めた。「一杯飲め」と缶ビールを差し出され、足が止まったこともある。

 よそ者である鷲尾さんにうさんくさそうな視線を向ける人もいた。それも沖縄の一面。シャッターを切った。

 現地で知り合った人と沖縄について真剣に話をすることもあった。

 そこで、「ぼくみたいな嫌なジジイはいないと思うんですよ」と、自らを毒づく。

「どのへんがですか?」と、問うと、「はっきりとものを言うからね。沖縄では嫌われますよ」。

 しばし、鷲尾さんが体験したリアルな沖縄の話に耳を傾ける。どれも報道では伝えられないことばかりだ。

「だから、沖縄は難しいね」

 そう言いつつも、鷲尾さんは「沖縄からはほんとうに学びましたよ」と繰り返す。

「人としての心遣い、相手に対する思いやり、やさしさ。そういったものを持ち合わせないと写真は撮れないんだな、ということ。だから、撮らせてもらうという、気持ちでカメラを差し向けないといけない。そこでいかに大事なものを切り取って持ってこられるか、ということなんです」

(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)

【MEMO】鷲尾倫夫写真展「巡礼の道 オキナワ」
JCIIフォトサロン 8月3日~8月29日

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