「ひめゆりの塔に行って学徒隊の写真を2時間ちかく見たんです。そこに写ったひとり一人対峙した。そうしたら、米軍が上陸した地点から歩いてみるのもいいんじゃないかなと思った。そこからぼくの沖縄が始まった」
そう言って、写真展の図録の表紙をめくる。
船上から写した島の写真。キャプションには「沖縄で初めての一枚」とある。黒い海に白波が砕け、背景には山が連なった島影が見える。上空をどんよりとした雲が覆っている。
「やっぱりね、最初はどうしても暗くなっちゃう。そういうイメージというか」
船で渡ったのは沖縄本島の西に位置する慶良間(けらま)諸島、渡嘉敷島(とかしきじま)。太平洋戦争末期の1945年3月26日、米軍はこの島々に上陸し、沖縄の地上戦が始まった。
島を歩きながら鷲尾さんはいつになく緊張した。ここで戦争体験者を見つけ、話を聞き、写真を撮りたかったのだが、その行為は想像以上に重くのしかかってきた。結局、誰にもレンズを向けることができず、島を後にした。
■「大概は『忘れたさ』と言う」
同年5月、今度は沖縄本島の本部半島に近い伊江島を訪れた。そこで畑仕事をするおばあさんと出会い、あいさつをすると、「日本から来たのか?」と言う。
家に招かれ、縁側に腰を下ろし、とりとめもない話をした。しかし、戦争の話を聞こうとすると、口を閉じてしまった。
おばあさんは家の奥に消え、しばらくすると、紅芋も載せた皿を持って戻ってきた。「口に会うかねえ」と、鷲尾さんに差し出すが、手が出ない。すると、おばあさんは目を閉じて、唐突に細い声でしゃべり出した。
<なんでえー、私、生きているさあー、みんな忘れたさあー、人は目をつぶると何も見えなくなるはずなのに私は逆にいろんな物が色付きで甦ってくるさあー。夜空に走る艦砲射撃は花火のようにきれいだったよー、その火が途切れると身を起こし逃げるさあー、目の前には傷つき倒れている人、人で一杯だったよー>(写真展「巡礼の道 オキナワ」解説文、ニコンサロン、2013年)