2019年5月、Oslo Freedom Forumで歌うデニス・ホー(c) Aquarian Works, LLC
2019年5月、Oslo Freedom Forumで歌うデニス・ホー(c) Aquarian Works, LLC

 抵抗が絶対不可能とも思える圧政に挑む。破壊され、否定され、しかし、立ち上がる。ささやかでも希望の足場を作って再起する。投獄や死を意識しない日はないかもしれない。デニスの歌はたけだけしいアジテーション型の歌ではない。人間の自由な魂に訴えかける歌。出口の見えない重苦しさの中、自由闊達に歌うデニスの姿は神々しく見えてくる。

 世界に発信するため、国連や米議会外交委員会で、自由と民主主義が危機的な香港の状況について訴えるデニスの姿も描かれる。怒りは、決してファナティックな様相にならず、凛とした骨太な確信となって説得力を増している。それはステージで歌う姿と地続きだ。

「デニスの生き方は勇気とは何かを教えてくれる、若者には、彼女を勇気のモデルにしてほしい。香港で起きていることを忘れてはならない。それは台湾でもいずれ起きることではないでしょうか。自国に大使館があれば、そこでデモ活動をするなど、勇気を示す方法はいくらでもあると思う」

■デニスはしぶとい

 香港の将来は楽観視できないだろう。しかし、映画で、デニスが闘い、歌う中で見せる一瞬のきらめきは尊い。それは「日本の将来を楽観視できるのか」という我々自身に突き付けられる問いかけのようにも感じられてくる。彼女の歌を聴く観客たちの目や表情も迫る。「拍手はファンの内に秘めた思いの表れ」というデニス。そうした思いと、街頭で警官隊と衝突する若者たちの自由、民主主義への悲願を一身に受けて彼女の歌は怒涛の大河のように紡がれる。それが彼女を奮い立たせる。もはや伝説化への道を歩き始めているのかもしれない。

「私は中国、香港にはもどれないでしょうね。私のすべきことは、アメリカにいてでも香港について発言をしていくことです」と監督は言う。

「デニスはしぶとく強靭です。信じる力が強い。仏教の瞑想も信じる力の醸成には役立っているのでしょう。香港とは異なる文化を持つカナダの子供時代、LGBTQとしての疎外感など、デニスはアウトサイダーだったからこそ強い人間になっていったと思う」

 映画には、社会で疎外感に苛まれるアウトサイダーたちへのエールも込められている。(文/米原範彦)

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