2019年、逃亡犯条例改正案反対デモに参加するデニス・ホー(c) Aquarian Works, LLC
2019年、逃亡犯条例改正案反対デモに参加するデニス・ホー(c) Aquarian Works, LLC

 映画の密着取材は、中国から排除された失意の時期から始まるが、それ以前の映像を巧みに編集し、歌に生き、民主化に生きる人間を見事に描出している。

 日本では東京でこの6月に公開された。倉田徹・立教大学教授は「何かを隠すための懸命の行動は、全てをさらけ出した彼女に勝つことはできない」。美術家のヴィヴィアン佐藤さんは「香港民主化運動もLGBT権利運動も『ここではないどこか』への強い強い想いだ」。こうしたコメントを映画に寄せている。

 ウィリアムズ監督は長らく中国を題材にした映画を撮ってきた。2016年にはボストン・グローブ紙フィルムメーカー・オブ・ザ・イヤー賞を受けた。

「長らく香港社会を見てきたので分かったのですが、何らかの変化が起きていると感じていた。これに中国政府がどのように取り組むのか関心があった。欧米社会に中国の今、中国のソフトパワーを伝えたかった」

■撮影は目立たないように

 監督は、共通の友人を通じてデニスを知り、2017年夏に直接会った。「シャイな人で本当にスターかな、と思わせるようでした」。しかし、ロンドンでパフォーマンスを見た時、エネルギッシュな姿に印象が変わり、引き込まれたという。

 2019年12月に撮影を終えたが、その後も香港には激震が走った。一国二制度のなし崩し白紙化、香港国家安全維持法の施行、民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)さんら若者の検挙、「リンゴ日報」も廃刊させられた。「撮影は中国ではなるべく目立たないように進めることを心掛けました」と振り返る。

「中国は監視にたけ、今、プレスや香港の人からの連絡は当局への恐れからか減っている。結末がどうなるのかはもちろんわからない。この映画の監督として、作り手としてリスクも感じる」

 民主化運動の側面は、映画の核心ではあるが、一方で、アニタ・ムイからの解放、セクシュアリティの解放、中国の圧政からの解放という、一人の人間の壮絶な解放を求める歩みともとらえられる。

「おっしゃるように、そうした個人のストーリーとしても見ることができる。子供時代のカナダ・モントリオールでの典型的な民主教育を経て、香港での活動へ。アニタ・ムイを尊敬しながら、その継承者と呼ばれるには負担を感じていたでしょうね。2010年代初めのゲイ・パレードで歌手のアンソニー・ウォンの導きもあって、レズビアンであることをカミングアウトしました。これが政治的な活動に傾斜していくきっかけとなったと思う」

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香港で起きていることを忘れてはならない