例として挙げたのが、中央大学の「知の回廊」だ。日本で初めてケーブルテレビと共同で教養番組を制作し、01年4月から放映している。
目的は「大学の知的財産を社会に還元したい」。
中央大学広報室の野口陽史さんは、「スタート時の一番の狙いは地域の方に大学での研究や教育について理解してもらいたいというもの。想定していた主な視聴者も中高年の方でした」と言う。ところが、10年からユーチューブでも「知の回廊」を配信すると、視聴者層に変化が出てきた。
「在校生や高校生の若い世代に伝わっており、中高時代に『知の回廊』を観ていた学生が入学してきている。ユーチューブのコメント欄には『受験を考えている』『無事合格できました』という書き込みも。ユーチューブ、SNSでの発信は、大学のブランディングに有効といえます」(野口さん)
■「宝の山」をSNSで
このコロナ禍でユーチューブのチャンネル登録者数が2倍近くに増え、一層の手応えを感じている。
「理系文系という縛りすら緩くなり、学びのフィールドの壁が低くなっている中、『知の回廊』を一つのきっかけにして、学問を身近に引き寄せ自分の興味に結びつけ、学びの幅を広げていってほしい」(同)
大学の発信力において、課題は何か。大学、高校と連携しながら高校生の進路開発などに取り組む高大共創コーディネーターの倉部史記さんは「入試広報に関してはまだ工夫の余地がある」と指摘する。
というのも、ひとことで「◯◯学部」と言っても、大学によって学びの内容は異なる。教職員と学生との距離の近さも違う。授業の進め方、取り上げる研究テーマ、学問に対する姿勢など、大学のパンフレットでは分からないことがたくさんある。
「そういった“宝の山”がたくさんあるのに、SNSなどで取り上げている大学は少ない。特にコロナ禍でオンライン授業が行われている今、高校生や保護者が知りたいのは、どのような学びを提供してくれるか。キャンパスの美しさ、サークルの様子などもいいですが、本当に知りたいことに応えていない印象があります」(倉部さん)
兵庫県立大の井関さんは、次のように言う。
「動画の作りがテレビ的だったり、実際の講義を録画しただけのものだったりするのは問題。学問に関する動画や教養系の動画をもっとユーチューブ仕様に作っていくことが、大学の社会貢献として必要だと考えます」
(ライター・羽根田真智)
※AERA 2021年7月12日号より抜粋