登場人物の心情も織り込んだ情景描写が特徴的だ。なぜこんな表現ができるのか。本人は「小説を書くための勉強は特にしていません」と言うが、文章力の秘密についてこう明かしてくれた。

「昔から作文が好きで。高校・大学受験は推薦入試だったのですが、小論文の練習として朝日新聞の『天声人語』を要約したり、書き写したりしていました。それで文章構成の基礎や表現力が身につけていたのが役立ちましたね」

 2016年、早稲田大学2年次には女子大生モデルとして『週刊朝日』の表紙を飾った。オーディションでは「ピカイチの存在感で、審査でも満票」(当時の週刊朝日編集長)だった。当時をこう振り返る。

「このときは初めて出演した映画が公開されたり、初めて自分で映画を撮ったりと、本当に駆け出しの頃でしたね。もっと映画に出たいとか、もっと映画を作りたいとか、野心をもっているときです(笑)。表紙に出たおかげで反響がすごくありました。写真家の川島小鳥さんともこの時に出会い、今回の映画のスチール撮影や小説の表紙を撮ってもらっていました。週刊朝日の表紙に出させてもらったことは、私のキャリアの支えになっています」


週刊朝日2016年8月5日号の表紙
週刊朝日2016年8月5日号の表紙

 彼女の活躍はまだまだとどまりそうもない。今回の撮影では「子どもたちが脚本に書かれた予定調和を壊してくれることで、そこから新しい表現が生まれた」と語る小川。コロナ禍で空いた時間を活用して、子どもとより向き合えるようにと、保育士の資格を取得したそうだ。

「資格を取ったのは、子どもを理解して向き合うためですね。また子どもが出る映画を撮りたいとも思っています。役者も映画も小説もやることは全然違いますが、表現という点ではお互いに結びついている。これからも新しいことに挑戦しながら、表現の幅を広げていきたいと思っています」

 進化し続ける小川紗良に注目だ。

(文/AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

※映画『海辺の金魚』は6月25日から東京・新宿シネマカリテほか全国公開。小説はポプラ社刊。

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