「『自然な姿を撮りたい』という小川監督の意向で、今回は演技経験のない子どもたちに出てもらい、台本も渡しませんでした。そのため、どう演技してほしいかを伝えるのにとても心を砕きました。監督は、一緒に作品を作っているんだということを子どもたちと同じ目線になって伝えようとしていました。後半の大事なシーンを撮るときに、子役に『今日は大変だと思うけど、花ちゃん(主人公)と一緒に頑張ろうね』と目を見て話していたのはとても印象的でしたね」
 
 なぜ児童養護施設を舞台にしたのか。小川は「身寄りのない子どもたちに以前から思い入れがあったから」と語る。

「『キャンディ キャンディ』とか、『明日のナージャ』『アルプスの少女ハイジ』など、孤児院で育った少女や親元を離れた少女が主人公のアニメを小さい頃から見ていました。自然と、希望を捨てずにたくましく自分の道を歩んでいく女の子の姿に共感するようになったんだと思います。今回の作品は、主人公だけではなく、見てくれた方や私自身が、自分の人生を歩み出す後押しになればと思っています」


窓から空を眺める小川紗良さん(撮影/写真部・張溢文)
窓から空を眺める小川紗良さん(撮影/写真部・張溢文)

 彼女の作品には、雨のシーンが少なくない。映画のクライマックスは大雨のシーンが印象的だ。大学時代に最初に作った短編映画『あさつゆ』は、アジサイの咲く梅雨の季節が舞台になっている。

「私は晴れ女なんですが、雨が好きですね。梅雨生まれなんで(6月8日生まれ)、梅雨の時期が好きなんです。植物が生き生きとしている感じがいいな、と思って。登場人物の心理や情景描写によく使っています」

 映画制作後に執筆した小説も、雨のシーンから始まる。初めて書いた小説について、「映画よりも予算や場所などにとらわれない分、自由に表現ができ、奥深いと思いました」と小川は話す。

 小説の前半にはこんな描写がある。18歳の女子高校生の誕生日会と、施設に入所してきた少女の歓迎会が一緒に開かれた際のシーンだ。

<窓の外に目をやると、いつの間にか雨は止み、庭の木々に滴る雨粒が月光に照らされていた。風が吹くとその雨粒がきらりと落ちて、庭中の木々が涙を流しているようだった。私と晴海の記念日を祝うその涙は、喜びにも悲しみにも思えた>

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