はまったら抜け出せない。そんな深い沼に足を取られる人が続出しているのが、インドの炊き込みごはんビリヤニだ。沼の住民に話を聞くと、味と香りにやられて、昔の生活には戻れないという。AERA2021年6月7日号の記事を紹介する。
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その食べ物は、口に入れると複雑なスパイスの香りが、鼻から脳天を駆け抜けていった。バキューン。すると今度は、香りとおいしさの弾丸をたっぷりまとったバスマティライス(インドの高級米)が、舌の上で雪のように溶けていく。フワーン。
その、バキューンとフワーンのハーモニーな食べ物とは、「ビリヤニ」。インドや周辺の南アジアで、ハレの日のメニューとして食べられることもある、ごちそうスパイスご飯のことを言う。このビリヤニが、ポスト・スープカレーの声があがるほど、人気を呼んでいる。
例えば冒頭のビリヤニを作った大澤孝将さん(31)。業界のカリスマとされる人物だ。夏に開く専門店「ビリヤニ大澤」(東京都千代田区)のため、クラウドファンディング「CAMPFIRE」で資金を募ったところ、600人以上の支援者と約900万円が集まった(5月24日現在)。目標額の500万円は開始2日で突破。支援総額は今も更新中だ。
「ビリヤニほど、『沼』という言葉がぴったりくる料理もないかもしれないですね」
そう力説するのは、カレー研究家の水野仁輔さん。50冊以上のカレー関連本を著し、最近は書籍『ビリヤニ とびきり美味しいスパイスご飯を作る!』(朝日新聞出版)も監修した。
その「沼」にズブズブ足を取られながら、究極の味を求めて日々ビリヤニを炊いているひとりが、大澤さん。初めてビリヤニに出合ったのは、2009年のことだ。
■インドでノックアウト
会社員として出張した南インドの地方都市で偶然食べてみた。その瞬間、おいしさにノックアウトされた。インドに滞在していた3週間、現地の人においしい店を聞きながら、毎日4食味わうビリヤニ三昧(ざんまい)日々を送ったという。