夏季シーズンに定期運行され、通常運賃で乗車できる復刻単車「箱館ハイカラ号」は観光客やファンの人気が高い。末広町~大町(撮影/諸河久:2012年5月24日)
夏季シーズンに定期運行され、通常運賃で乗車できる復刻単車「箱館ハイカラ号」は観光客やファンの人気が高い。末広町~大町(撮影/諸河久:2012年5月24日)
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 1960年代、都民の足であった「都電」を撮り続けた鉄道写真家の諸河久さんに、貴重な写真とともに当時を振り返ってもらう連載「路面電車がみつめた50年前のTOKYO」。今回は、復刻されて各地で活躍している「単車」と呼ばれる四輪で走る路面電車の話題だ。特別編として「単車」のルーツや、現役時代の活躍ぶりを紹介してきたが、現在も函館、広島、高知で復刻され、実際に乗って楽しめる「単車」たちを紹介しよう。

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北の国・函館市で好評な「箱館ハイカラ號」

 冒頭の写真は新緑が美しい函館山を背景に走る函館市交通局(現・函館市企業局/以下函館市電)の函館どつく前行き30型「箱館ハイカラ號」。後方の登り坂は基坂で坂上には西欧庭園の元町公園があり、シーズンには観光客で賑わう。

「箱館ハイカラ號」は函館市制70周年行事の一環として、1993年5月に登場した観光用の高床式単車。現役で活躍していた除雪用の排2号からの復刻改造車で、前歴の車籍も引き継いだため、旅客車時代の30型39号を付番された。改造ベースとなった排2号は1910年製で、千葉県成田市街に敷設された成宗(せいそう)電気軌道の木造単車を1918年に函館市電の前身である函館水電が譲受。30型旅客車として使用後、1937年に除雪車排2号に改造され、復刻時まで現役で稼働していた。
 

函館どつく前でポーズをとるレトロな詰襟の運転士とモダンなコスチュームの女性車掌。運転開始時の一コマで、コイルバネを付加された単台車は独特の乗り心地が楽しめる。(撮影/諸河久:1993年7月2日)
函館どつく前でポーズをとるレトロな詰襟の運転士とモダンなコスチュームの女性車掌。運転開始時の一コマで、コイルバネを付加された単台車は独特の乗り心地が楽しめる。(撮影/諸河久:1993年7月2日)

 復刻にあたり、新たに半鋼製の車体が札幌交通機械で製造された。明治調の二段屋根は鋼板張りで絶縁材を塗布し、腰板は鋼板に難燃処理された楢材の短冊を張り付けるなど、現在の運転保安基準を満たしている。エアーブレーキ付きで、台車は製造当時の軸距1829mmブリル21E-1単台車を入念に手入れして流用。自重10.35トン、定員33(20)名(カッコ内は座席定員)。

 次のカットは、1993年のデビュー時に撮影した運転士と市内観光などを乗客へアテンドする女性車掌。毎年4月~10月の期間限定で運行され、通常運賃(210~260円)で乗車できる復刻路面電車として観光客から好評を博してきたが、コロナ禍により2020年度は運転できなかった。今年も引き続き運休しているが、コロナ禍の終息時には運転再開が待たれている。
 

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諸河久

諸河久

諸河 久(もろかわ・ひさし)/1947年生まれ。東京都出身。カメラマン。日本大学経済学部、東京写真専門学院(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。鉄道雑誌のスタッフを経てフリーカメラマンに。「諸河 久フォト・オフィス」を主宰。公益社団法人「日本写真家協会」会員、「桜門鉄遊会」代表幹事。著書に「オリエント・エクスプレス」(保育社)、「都電の消えた街」(大正出版)「モノクロームの東京都電」(イカロス出版)など。「AERA dot.」での連載のなかから筆者が厳選して1冊にまとめた書籍路面電車がみつめた50年 写真で振り返る東京風情(天夢人)が絶賛発売中。

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広島市内で活躍する単車