「2人とも刑務所に入った経験は同じですが、政治の見方は異なります。演者は再現ドラマに参加することで自身の生い立ちと、扮した人たちとの間にどんな違いや共通点があるのかを確認でき、(政治的立場の異なる)二つのレイヤーが生まれます。この手法で、時空を超えた人と人との連帯を描くことができました」(チャン監督)

「時代革命」撮影中のキウィ・チョウ監督
8月13日(土)から、ユーロスペースほか全国順次公開
(C)Haven Productions Ltd.
「時代革命」撮影中のキウィ・チョウ監督 8月13日(土)から、ユーロスペースほか全国順次公開 (C)Haven Productions Ltd.

 本作で、チャン監督に見えた香港人のアイデンティティーとは何か。

「我々が信じてきた価値観は自由・民主・法治。我々が心の中に持っているとても大切なものです。香港に住んでいるから香港人ではなくて、香港を離れたとしても、刑務所に入ったとしても、体がとらわれても信じている心の部分は変わらない。それが香港人のアイデンティティーなのではないか。そういう思いが時代によって強くなっているように感じます」

 まさにそのアイデンティティーを失うまいとする香港人の矜持が炸裂した作品が、19年の大規模デモを追った「時代革命」だ。昨年のカンヌ国際映画祭などでサプライズ上映されて世界に衝撃を与えた。約180日間に及んだ民主化を求める大規模デモには香港の人口700万人のうち、10~30代を中心に200万人が参加したという。キウィ・チョウ監督(43)は制作のきっかけをこう語る。

「映画制作者として14年に起きた雨傘運動を撮れなかったことが、大変悔しかった。19年のデモが起こった時は、『チャンスが降ってきた』と思いました。これは撮らなくてはいけない、と。特に、7月にデモ隊が香港立法会へ入った時のスピーチには感銘を受けました。このシーンはこの作品の中で重要な鍵となっています」

 いつ捕まるか襲われるかもわからない映像は緊張感に満ちている。監督もカメラマンの一人としてデモ隊を追いかけた。

「この運動にはリーダーはいません。自発的に集まり散り散りになっていく。一人では撮り切れないので、10人のカメラマンがそれぞれ被写体にインタビューしたり、張り付いたりしながら撮っていきました」

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