権力を恐れず、正々堂々と自由を求める若者たちに希望を見る一方、目を覆いたくなるような権力のえげつなさも次々とあらわにされる。

「Blue Island 憂鬱之島」
7月16日(土)から、ユーロスペースほか全国順次公開
(C)2022 Blue Island project
「Blue Island 憂鬱之島」 7月16日(土)から、ユーロスペースほか全国順次公開 (C)2022 Blue Island project

 20年に香港国家安全維持法(国安法)が成立した香港では、警察がやりたい放題。平和的にデモを行う市民に対しても押さえつけたり殴りつけたり、暴力が平然と行われる。突然青年に向かって発砲する警察官の姿は衝撃的だ。また、警察とつながっていると目されるマフィアの白シャツ集団もデモ隊に容赦ない。しかも、警察は通報を受けても動かない。香港には法治主義が働いていないことが一目瞭然だ。

 しかし、これらのドキュメンタリーが香港で上映されることはまずない。この数年、警察から圧力を受けてきたキウィ監督は、「香港映画には希望がない」と語る。

「上映できる映画には厳しい検閲がある。香港で映画を撮っても、(中国を刺激するような)象徴的な描き方はできない、社会問題も描けない。自由もない。絶望的です。それでも私は香港から離れたくない。『時代革命』のような作品は外国で公開し、差し支えないものは香港で上映するという二つのやり方でやっていきます」

「Blue Island 憂鬱之島」のチャン監督も香港で撮り続けるという。

「香港人たちは変化を乗り越える達人であり、私たちは常に立ち直ってきた。私自身も常に変化する状況に耐えていくつもりです。資金源を探さなくてはならないかもしれませんが、このことが乗り越えられない障害や今後の仕事を辞める理由にはならないと思います」

 香港の歴史を見る時、自由を一度失ったら取り戻すことが難しいのは明らか。侮辱罪の厳罰化で表現の自由が制限される懸念も議論される日本でも他人事とは思えない。

「『時代革命』では、中国政府の真実を、野蛮な彼らの本当の姿を見ることができます。この映画を見て香港を知るだけでなく、自分なりに考えてほしい。法治、民主、自由などは万国共通です。これらを失わないために勇気を持ち続けなければならない。映画に恐怖を感じるだけではなく、我々の善良さ、真実を思い起こす必要があります。香港という文明社会で、高度で自由のある街で起こったありえないような現実。これが東京で起こったらどうしますか」(キウィ監督)

(ライター・坂口さゆり)

チャン・ジーウン 1987年、香港生まれ。長編ドキュメンタリー第1作「乱世備忘 僕らの雨傘運動」は、山形国際ドキュメンタリー映画祭で小川紳介賞を受賞、台北金馬奨で最優秀ドキュメンタリー賞にノミネート

キウィ・チョウ 2004年、香港演芸学院電影電視学院演出学科卒業。15年、各国で注目されたオムニバス映画「十年」の一編「焼身自殺者」を監督。20年、2作目の恋愛映画「夢の向こうに」が香港で公開

※週刊朝日2022年7月29日号