いつまでこのような状態が続くかわからないし、都市封鎖になる可能性もあるだろう。そんなときにどうしようかなあと考えて、私が選択したのは乾物だった。ふだんから家に置いているが、それらを多めに買っておけば、電気やガス、水道は幸いにも使えるのだから、調理をするには問題がない。米も乾物だけれど、カップ麺も一種の乾物なのかもしれないと思いながら、うちの台所の棚や引き出しにある食材を思い出してみると、冷蔵庫のなかには、野菜、魚、鶏肉などの生鮮食料品、味噌が入っている。冷凍庫には、だし用の煮干しと昆布、えのき、しめじ、まいたけなどをほぐして、ひとつの袋に入れたもの、細切りの油揚げなど。私は若い頃から、最低限、水、米、味噌さえあれば、生き延びられると思っているので、基本としてこれだけは絶対に欠かさない。水は七年間保存できる保存水を、随時二箱常備している。一箱500ミリリットル入りのボトルが二十四本入り。家族がいる人は2リットル入りのほうがいいかもしれないが、冷蔵庫が使えなくなった場合、ひとり暮らしだとこちらのほうが使い勝手がよさそうな気がしたからだ。ローリングストック方式で、賞味期限が切れる前に使って、そのつど補充している。

 乾物は切り干し大根、乾燥まいたけ、乾燥わかめ、乾燥ひじきなど。最近はそれに加えて、乾燥野菜も加えるようになった。ベランダで干して自作すればいいのかもしれないが、うちの周辺は野鳥が多く、食べられそうなものがあると、すぐに見つけて飛んでくる。以前、生椎茸をたくさんいただいたので、平たいざるに入れてベランダで干していたら、なぜかうちのネコがその上に寝転がって昼寝をしたため、すべてだめになってしまった。

 そのような事情のため、今のところ自家製は無理なので、近隣のスーパーマーケットの乾物売り場で売っているものを買っている。白菜、人参、小松菜、キャベツ、レンコン、ゴボウなどで、キャンプの調理の際に使う人が多いと聞いた。家族で毎日使うとなると、割高になってしまうから使いにくいかもしれないが、ひとり暮らしの保存用乾物としてはちょうどいい。その他、香味野菜入りと、アンチョビとにんにく入りのトマトソースの瓶詰めをそれぞれ二個ずつ。肉、魚、野菜などすべての料理に使いやすいので常備している。

 いくら乾物が便利といっても、食べる習慣がなかったら、急にそういわれても戸惑うだけだろう。乾物をストックしておかなくても、室内に幽閉されているわけではないので、ちょっと外に出れば、いくらでもお惣菜が買える。ただし何らかの事情で、流通ルートが途絶え、カップ麺も菓子パンも買えなくなったらどうするのだろう。大変だが、せっかく今まで経験したことがない出来事のなかにいるのだから、自分が生きるための食事について、考えるといい。見てはいけないと思いつつ、前を歩いている人のレジ袋に目をやると、お弁当をたくさん買っている人も多い。あんなに買って、どうするのかと前出の友だちに聞いたら、そのまま冷凍庫で保存して、食べたいときに電子レンジにかけるのだと教えてくれた。

 週に一度の外出日、電車に乗っていたら、乗り込んできた若い女の子が、右手にメロンパン、左手に500ミリリットル入りのコーヒーを持っていた。どうするのかと見ていたら、座席に座ったとたん、おもむろにそれらを食べ、飲みはじめたのである。ふだんでさえ、電車内の飲食については、衛生面ってどうなの? と疑問を持っていた私だが、この感染症の脅威が叫ばれているときに、よく車内で飲食できるなあと、びっくりしてしまった。食を気にする人、気にしない人、本当に人それぞれだと、日々、驚かされているのである。

※『一冊の本』2020年5月号掲載

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