このタイトルを見て「えっ、ゲバルトの復活?」と思った方もいるかもね。その推測は半分はまちがっているけど、半分は当たっている。松尾匡『左翼の逆襲』の副題は「社会破壊に屈しないための経済学」。ゲバルトはともかく私たちはかつての労働者の精神を取り戻すべきだ、というのが本書の主張だ。

 そもそも90年代以降、私たちは「日本経済は国際競争力を失っている」「産業構造の転換が必要だ」「このままでは財政が破綻する」といった言説に乗せられて、緊縮財政を支持し、生産性の低い企業が淘汰されても仕方がないと考え、消費増税を許してきた。「改革」を掲げる自民党もリベラル・中道左派とされる野党も同じだった。

 その結果どうなったかといえば、格差と貧困が広がり、産業は空洞化し、中小企業や個人商店は苦境に立たされ、1%の富裕層だけが潤う社会になってしまった。こうした新自由主義路線はコロナショックで加速するだろうというのである。

 それに対抗するために著者が提唱するのが「レフト3・0」。労働者階級を中心に生産力と生活の向上を目指した70年代前半の左派(レフト1・0)は社会主義国の破綻などが原因で行き詰まった。市民を主体にマイノリティの権利獲得などの多様性を追求した80年代以降の左派(レフト2・0)は、労働者階級という視点を捨てたために市場原理主義に対抗できなかった。レフト3・0は両者を総合した、その先の思想という。

 労働者階級の視点も多様性も保持しながら<少数の富裕層や大企業のためではなく、圧倒的多数の庶民のための政策を推し進めます>。これがレフト3・0。リベラルなんて半端な立場じゃ対抗できない。<私たちは「左翼」を忘却のかなたから呼び起こさないといけません>

 こういう党は苦戦しつつも世界中で誕生している。いわば新しいマル経の入門書。コロナ禍で弱者の切り捨てが進むいまこそ求められる救済の書だ。

週刊朝日  2021年2月12日号