20歳のときに発症した著者が「潰瘍性大腸炎」とは、どのような難病かを綴った体験エッセイ集。著者は『絶望名人カフカの人生論』などのカフカ研究で知られる文学紹介者で、絶望的になってしまう日常をあえて克明に記述している。

 この難病は血便を伴う下痢の反復で、治まることはあっても再燃を繰り返し、原因がわからない。悩みはトイレ。入院中に点滴器具を付けたまま駆け込もうとし、寸前に漏らしてしまう。若い看護師と目が合って助けを求めるが、その対応に心はズタズタ。体重の激減で受話器が鉄アレイのように思えるなど、悲惨な出来事にも不思議とユーモアが漂う。

 日本人は「勧められたものは食べる」を美徳とするが、事情があって食べられない人が抱く「会食恐怖症」のことなど、健康な人が気づかない同調圧力に関する指摘は新鮮だ。(朝山 実)

週刊朝日  2020年12月4日号