洋服遍歴を重ねてきた小林はいま、ファッションに関してある種の達観の境地に至っている。


「いまの自分の年齢では洋服は沢山いらない。自然な自分でいるための、究極の一着があればいい」

 黒のタートルセーター、ジーンズ、シンプルなジャケット、マノロ・ブラニクのパンプス……。例えば、それがいまの小林の「究極の一着」だ。

 小林は、何をしたいとか何になりたいというより、今日の自分に何ができるか、ということを考える。普通に考えれば守りに入る年齢なのかもしれないが、これから何でもできそうな気がする。ファッションにはかかわり続けるだろうし、まだ語っていない、書き残したいことはたくさんある。

 今年2月、苗場プリンスホテル(新潟県)で行われた松任谷のコンサートに飛び入り参加した。1回だけ音合わせをして、88年の日本武道館でのコンサート以来、初めて人前で「雨音はショパンの調べ」を歌った。
「一緒に歌ったあと、35年間いろいろあったねって言って抱き合って泣いた。本当にこんな日が来たんだ、と思いました」(小林)

 前出の延江は、そんな松任谷と小林を見てこう話す。

「あの二人は何をしでかすかわからない。そういう面白い友情があるんだな、と」

 小林の人生の「第二幕」は、いま始まったばかりだ。(文中敬称略)

     *

 ■こばやし・あさみ
1953年 11月29日、東京都大田区生まれ。
  60年 大田区立入新井第一小学校入学。
  66年 普連土学園中学校入学。
  69年 普連土学園中学3年生の時にスカウトされる。普連土学園高校進学。
  70年 文化学院高等部英語科に編入。
  72年 「初恋のメロディー」で歌手デビュー。同期に、西城秀樹、麻丘めぐみなど。
  76年 PARCOの広告「人生は短いのです。夜は長くなりました。」に出演。エッセイ集『ブルーグレイの夜明け』刊行。
  77年 資生堂の広告「マイピュアレディ」に出演。
  80年 ヒロインを演じた映画「野獣死すべし」公開。
  81年 主演映画「真夜中の招待状」公開。
  84年 4月、シングル「雨音はショパンの調べ」リリース。6月、エッセイ集『あの頃、ショパン』発売。8月、アルバム「CRYPTOGRAPH」リリース。10月、テレビドラマ「安寿子の靴」に出演。写真集『CRYPTOGRAPH~愛の暗号』刊行。
  85年 フォトエッセイ集『私生活-PRIVE』刊行。アルバム「ANTHURIUM~媚薬」リリース。
  86年 テレビドラマ「匂いガラス」に出演。
  87年 アルバム「GREY」発売。写真集『ラ・ローズ・ノワール』刊行。
  88年 日本武道館でコンサート「HUMIDITY」開催。写真集『34(サーティフォー)』刊行。
  89年 ポストカードブック『愛、あなたにとどけ』刊行。
  91年 1月、長男を出産。3月、結婚、引退。
2015年 日本服飾文化振興財団評議員に就任。小林が寄贈したイヴ・サンローランのビンテージコレクションの一部を展示した展覧会「Mon YVES SAINT LAURENT展」が開催。
  16年 マガジンハウスの雑誌「ku:nel」9月号の表紙に登場。「伝説のおしゃれミューズ」連載開始。
  20年 3月、延江浩による評伝『小林麻美 第二幕』が朝日新聞出版から刊行。

■小柳暁子 1971年、北海道生まれ。2008年、朝日新聞出版入社。AERA編集部副編集長などを経て現在書籍編集部。「AERA」掲載「時代を読む 第二幕――小林麻美とその時代」(延江浩・文)の編集を担当。

AERA 2020年5月25日号

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