C-1輸送機の後部貨物室の扉を開け、その縁に立って撮影したカット。F-2Aのパイロットは、低速ギリギリで機体を操っている(撮影:徳永克彦)
C-1輸送機の後部貨物室の扉を開け、その縁に立って撮影したカット。F-2Aのパイロットは、低速ギリギリで機体を操っている(撮影:徳永克彦)

「デジタル制御機」F-2の開発。飛行特性はいくらでも変えられる

 そして、彼らが手がけた最大のミッションといえば、F-2の開発だろう。本書で初めて知ったのだが、この戦闘機はそれまでの自衛隊機とはまったく異なる「デジタル制御機」だという。

 例えば、パイロットが操縦桿を引くと、その動きはデジタル信号に置き換えられる。機体にはそれ自体の動きをとらえるモーションセンサーが取り付けられている。搭載されたコンピューターは操縦桿や機体の動き、速度など、さまざまなデータは組み合わせて「最適な飛行をする解」を導き出し、その解に近づけるように機体を動かす。この仕組みによって、パイロットはこれまでのような職人芸に頼った操縦から解放され、より任務に集中できるようになるという(自分で撮った手ごたえを感じさせながら、写真の出来栄えをアップする、高度にAI化されたデジタルカメラのようだ)。

 衝撃的なことに、内蔵されたプログラムを変えることで飛行特性はいくらでも変えられるという。その味つけを決めるのも彼らテストパイロットに任された重要な仕事なのだ。新しい装備品や戦術が採用されるたびにプログラムはどんどん書き換えられる。つまり、パソコンのOSと同様、リリースされた後も常に検証とバージョンアップが繰り返される。

 これはF-2に限ったことではないが、「機体を開発したらそれでおしまい、じゃなくて、実用的に使っている期間は電子装備や外装品のアップグレードがあるので、常に何かのテストをやっているんです」(徳永さん)。

 そこに機体を独自開発することの困難さと、それを乗り越えることで得られる大きなメリットが見えてくる。日進月歩の搭載装備と、それによって変わる戦術に合わせて機体を改修して使い続けていくにはブラックボックス化した輸入機よりも国産機のほうが有利なのだ(もちろん、国産化には費用対効果や信頼性、同盟国との関係など、さまざまな課題がある)。

保有している4機のF-2が同時に飛ぶことが稀な理由

 そんな解説文を読んだ後、再びF-2のページを開くと、機体へのまなざしが変わっている。写し出された4機のF-2の派手なカラーリングは伊達ではない。その動きの変化を随伴機から克明に記録するため、あえてそのように塗装されているのだ(しかも、4機すべて異なる)。

 ちなみに、徳永さんによると、「写真のように、この4機が同時に飛べるって、10年ほど前に一度あっただけで、まずないんです。試験内容によって使う機体が変わってくるので、必ず、何機かは改修や整備に入っていますから」。

 ある意味、F-2はいまだ開発途上にあり、彼らの手によって日々進化を続けているのだ。

                  (文・アサヒカメラ 米倉昭仁)

※1 徳永さんは戦闘機に同乗して撮影することのできる世界的にも稀有な写真家。その名は国内よりも海外で広く知られているかもしれない。これまでに出版した写真集は40冊以上。

※2 トップガンはアメリカ海軍、戦闘機パイロットのトップ養成コースの通称だが、映画「トップガン」(1986年)で有名になり、戦闘機パイロットのトップエリートを指す言葉として使われるようになった。

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