
ミサ用につくり始めたワインが村いちばんの収入源に
作品を一巡して教会の外観を写した写真に戻ると、手前に何やら畑が広がっているのが目にとまる。
「実はこれ、ブドウ畑なんですね。ミサをするのにワインが必要なので、ブドウの種をフランスから持ってきたんです。それでブドウの植え方とワインの作り方を地元の人に教えた」
それは100年以上も前の話なのだが、今ではなんと、このブドウでつくったワインが村いちばんの収入源になっているという。降水量が少なく、昼夜の温度差が大きいため、ワインの産地として適しているらしい。
しかも、「このローズハニーという品種は、もうフランスでは絶滅してしまったもので、ここだけしか残っていない」。そのため、珍品として海外のワイン愛好家にも知られるようになった。ちなみに、どんな味なのか、聞くと、「けっこう原始的で面白い」。
そのブドウの種を携え、この地に分け入ったフランス人神父の墓が教会の裏に残されている。十字架の立つ、石をアーチ形に組んでつくった墓は風化し、歴史を感じさせるものの、きれいなかたちを保っている。長い間、多くの人々によって守られてきたことを感じさせる。
中国の宗教にからむ話を聞くと、どうしてもあの文化大革命(※)の時代を思い浮かべてしまうのだが、その間、この教会は小学校として使われ、破壊を免れたという。84年に教会は再開し、いまでは文化財にも指定され、この地の人々の心のよりどころとなっている。
(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)
【MEMO】栗田哲男写真展「チベット、十字架に祈る」
キヤノンギャラリー銀座 10月29日~11月4日
キヤノンギャラリー大阪 12月3日~9日
※ 文化大革命は1966年、中国共産党内の路線対立を背景に、毛沢東主席が階級闘争の継続などを訴え、大衆を動員して始めた政治運動。毛を崇拝する青少年らは「紅衛兵」となり、「造反有理」のスローガンの下でさまざまな機関の幹部や文化人らを弾圧。多くの宗教施設も破壊した。