写真家・栗田哲男さんの作品展「チベット、十字架に祈る」が10月29日から東京・銀座のキヤノンギャラリー銀座で開催される(大阪は12月3日~12月9日)。栗田さんに話を聞いた。
「チベット、十字架に祈る」。この不思議なタイトルに心引かれた。チベットと十字架がつながらないのだ。(十字架っていうことはキリスト教徒だよな。しかも、あのチベットで)と思ってしまう。
時折「チベット問題」という言葉をニュースで耳にする。チベット族と中国政府との対立があり、たびたび緊張が高まるのだが、そのたびに注目されるのがインドに脱出し、亡命政府を樹立したチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世である。
つまり、チベット族にとって、チベット仏教は切り離すことのできないアイデンティティーであると思っていたので、面食らってしまったのだ。
そもそもチベット族は中国の少数民族のひとつなのだが、そのなかのキリスト教徒となると、彼らは相当なマイノリティーということになる。いったい、どんな人々なのだろう。作品を撮影した栗田さんが興味を引かれたのもやはり、その点だという。
メコン川上流の深い谷底にある村。住民のほとんどはキリスト教徒
中国のチベット族の居住地域はチベット自治区のほか、青海、甘粛、四川、雲南各省にある。今回の作品の舞台となったのはチベット自治区に接する中国南部、雲南省の迪慶(デチェン)チベット族自治州。氷河を抱く6千メートル級の梅里雪山がそびえ、金沙江(長江上流部)と瀾滄江(メコン川上流部)が深い谷を刻む、世界自然遺産「三江併流」としても知られる場所だ。
茨中天主教堂のある茨中村は、梅里雪山の南30キロほどの瀾滄江沿いにある人口1300人ほどの集落。なんと、その7、8割がカトリックのキリスト教徒という。中国の秘境にある、隠れキリシタン村といった印象だ。
19世紀半ばに派遣されたフランス人宣教師が、この一帯へ布教にやってきたことが始まりといわれ、1867年に教会が建てられた(現在とは別の場所)。しかし、1905年にキリスト教の排斥運動で焼き撃ちに合い、破壊されてしまう。その4年後、茨中村で再建が始まり、21年に完成したのが現在の茨中天主教堂である。
中国式の石造りの建物で、写真をよく見るとてっぺんに十字架がちょこんとあり、教会であることがわかる。でもやはり、ちょっと雰囲気が違う。栗田さんに聞くと、「チベット族とナシ族のほか、いくつかの様式を組合せた、という話です」。