多くの自動車が行き交う中山道の志村坂上停留所で、巣鴨駅前に折返す18系統と並ぶ志村橋からやって来た41系統巣鴨駅前行きの都電。その右側をダンプカー仕様のいすゞTD50型トラックが並走する。(撮影/諸河久:1966年5月28日)
多くの自動車が行き交う中山道の志村坂上停留所で、巣鴨駅前に折返す18系統と並ぶ志村橋からやって来た41系統巣鴨駅前行きの都電。その右側をダンプカー仕様のいすゞTD50型トラックが並走する。(撮影/諸河久:1966年5月28日)

 1960年代、都民の足であった「都電」を撮り続けた鉄道写真家の諸河久さんに、貴重な写真とともに当時を振り返ってもらう連載「路面電車がみつめた50年前のTOKYO」。今回からは「都電ナンバーワン」の視点で展望した路線編として、最長距離系統を走る都電の話題だ。

【54年が経過した同じ場所は激変した!? 現在の写真はこちら】

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「最も北にある駅」「最も混雑する区間」「最も名前が長い駅」

 鉄道好きに限らず、「一番」を意味する物事には何かと興味がわく読者も多いはずだ。そこで今回は、都電のなかで「最も長い距離」を走った系統を紹介する。

 終戦後間もない1947年に戦前からの都電運転系統が改訂され、1系統(品川駅前~上野駅前)から40系統(神明町車庫前~銀座七丁目)の新たな系統番号を掲示した都電が走り始めた。

 1952年5月には26系統の通称今井線(正式名は一之江線・東荒川~今井橋)がトロリーバス開業による輸送転換で廃止され、26系統は欠番となった。その後、1955年6月に志村線の志村坂上~志村橋が開通。新たに41系統(志村橋~巣鴨車庫前)が新設された。1959年の時点で、都電は営業距離214000m、全40系統を擁する戦後の黄金時代を迎えていた。

■最長距離を走った18系統

 戦後に付番された41の系統中、最長距離の12274mを走ったのが18系統(志村坂上~神田橋)だった。

 冒頭の写真は、その18系統の起点志村坂上で折返しを待つ巣鴨車庫前行きと、志村橋から巣鴨駅前に向かう41系統の都電が顔を合わせた一コマ。筆者は志村坂上停留所の安全地帯から撮影しているが、中山道(国道17号)を行き交う自動車の数は半端なものではなく、歩道からの撮影はクルマに被られて難渋した。国道17号線に敷設された志村線は、画面奥の志村坂上交差点を北西に直進して坂を下り、約1900m先の志村橋に向かっていた。

都電が消えて54年の歳月が巡った志村坂上の近景。拡幅された中山道(国道17号)とセットバックで昔日の面影を失った背景の家並。(撮影/諸河久:2020年10月2日)
都電が消えて54年の歳月が巡った志村坂上の近景。拡幅された中山道(国道17号)とセットバックで昔日の面影を失った背景の家並。(撮影/諸河久:2020年10月2日)

 距離が長いこともあり、始終点間の停留所数も最多の34を数えた。走行線区は、志村線(志村坂上~下板橋)、板橋線(下板橋~巣鴨車庫前)、巣鴨線(巣鴨車庫前~白山上)、白山線(白山上~春日町)、水道橋線(春日町~神田橋)の5線に及んでいる。神田橋~下板橋(志村線開通時の1944年に廃止)は1904年から1929年にかけて開通しており、下板橋~新板橋(後年志村本町に改称)~志村坂上は戦時中の1944年に資材不足を中古資材流用で克服し、地元民の勤労奉仕で開通させている。

 戦前から18系統(下板橋~日比谷)で運転され、志村線が開通した1944年からは志村坂上~神田橋の運転となった。1966年5月28日、志村橋~巣鴨車庫前の路線廃止によって41系統(志村橋~巣鴨駅前)と一緒に廃止された。

 次のカットが撮影から54年後に訪れた志村坂上の近影だ。志村線が撤去された国道17号は拡幅されて、セットバックで移転した往年の街並みは消え去っていた。

 変わらないのは車の流れで、視界を遮ってしまう大形トラックの通過間合いにシャッターを切った。ちなみに、この志村坂上交差点は変則五差路で、左右から城山通りと小豆沢通りが交差して、国道から北西側に分岐する細道が由緒ある旧中山道であることを知った。

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諸河久

諸河久

諸河 久(もろかわ・ひさし)/1947年生まれ。東京都出身。カメラマン。日本大学経済学部、東京写真専門学院(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。鉄道雑誌のスタッフを経てフリーカメラマンに。「諸河 久フォト・オフィス」を主宰。公益社団法人「日本写真家協会」会員、「桜門鉄遊会」代表幹事。著書に「オリエント・エクスプレス」(保育社)、「都電の消えた街」(大正出版)「モノクロームの東京都電」(イカロス出版)など。「AERA dot.」での連載のなかから筆者が厳選して1冊にまとめた書籍路面電車がみつめた50年 写真で振り返る東京風情(天夢人)が絶賛発売中。

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