自社製シャツを25年で世界的ブランドに押し上げた、「メーカーズシャツ鎌倉」の創業者・貞末良雄の伝記。
大学で専攻した電気工学を捨て去ったり、ヴァンやヤオハンなど名だたる企業を渡り歩いていながら、生来の理屈っぽさが災いしてけむたがられ、やがて袂を分かったりと、一筋縄ではいかない人生行路を歩んできた人だ。独立も53歳と遅咲きだったが、その後の快進撃をあと押ししたものが、「客が真に喜ぶものは何か」を追求しつづける、父親譲りの「商人道」にあったことが見て取れる。
本書のもうひとつの見どころは、貞末を支えつづけてきた妻・タミ子との長い年月に及ぶ愛の物語。『シャツとダンス』という一見不思議なタイトルの意味は、アイビースタイルが全盛だった古きよき時代の二人のなれそめから現在に至るまでを追ってこそあきらかになる。(平山瑞穂)
※週刊朝日 2020年10月9日号