「料理は、アレンが一手に担っていたので、亡くなった後、3カ月かけて、その味を再現しました」(美穂さん)
ハイチはカリブ海に面した島国で、国民の9割以上がアフリカ系住民だ。1804年、フランスから独立し、世界で初めて黒人による共和国を樹立したことで知られる。
「海がきれいで、庭にはパッションフルーツ、バナナ、マンゴーなどフルーツの木がいっぱいあった、とアレンはよく言っていました。キッチンカーで出している、豚肉のグリオとキャベツのピクルス・ピケは、ハイチのソウルフードです」(同)
グリオは、豚肉を柑橘類に一晩漬けて揚げる。実際に食べてみると、カリッとしていて、ハバネロの辛さがピリピリくるピケとの相性は抜群。レッドキドニーを炊き込んだ豆ご飯はもちっとしていて、ほんのり甘い。
美穂さんは言う。
「アフリカに詳しいお客さんが、『グリオには、アフリカで“語り部”という意味がある』と教えてくれたことがあります。キッチンカーで私がグリオを作り続ける限り、ハイチや多くの人に愛されたアレンの記憶は語り継がれていくのだと思います」
食を通して知る、異国の文化やドラマ。旅先は、足元の身近なところにある。(編集部・石田かおる)
※AERA 2020年10月5日号