■日本人は米がマスト
9月上旬、気温35度の厳しい残暑のなかキッチンカー「papagayadeli(パパガヤデリ)」を訪ねると、車内の温度計は50度を指していた。外国人シェフが共通して挙げるしんどさに、日本の夏の蒸し暑さがある。シェフのガイ・ミズラヒさん(48)はイスラエル出身。エルサレムの料理を提供している。ガイさんは温度計を手にこう言った。
「50度が測定値のマックスなので、実際はもっと高いかもしれません。エルサレムも夏の気温は30度以上になりますが、日本のように湿度が高くないので過ごしやすいです」
ガイさんは暑さ対策として、保冷剤で冷却するベストを着ているが、「2時間しか持たない」と苦笑する。車内の温度がとりわけ上がるのは、看板メニューの、ひよこ豆のコロッケ「ファラフェル」や、鶏ささみのカツ「シュニッツェル」を、その場で揚げているからだ。
さっそく揚げたてのファラフェルを口にすると、エスニックな味わいが広がった。中東のバザールに誘われたような気分になる。トッピングしたひよこ豆のペースト「フムス」はクリーミーで、シュニッツェルはサクサク。低カロリーで高たんぱく。実にヘルシーだ。
ガイさんが、妻の珠希(たまき)さんとキッチンカーを始めたのは02年。18年が経つが、軌道に乗るまで時間がかかったという。
「最初は、ファラフェルといってもだれも知りませんでした。ピタパンにはさんだサンドイッチをメインにしていたのですが、3年くらいして『日本人のランチは、米でないとダメ』ということに気づいて米にシフト。それからやっと安定しました」
最近では体作りを意識した若者が、良質のプロテインを目当てに買いに来るという。時代がガイさんに追いついたようだ。
■語り部という名の料理
「店名のCHERIE(シェリー)はハイチ語で『愛しの』という意味。夫のアレンが私をそう呼ぶこともありました」
ハイチ料理のキッチンカーの店主・高橋美穂さん(55)は店名の由来を語った。ハイチ人の夫アレン・ソロンさんとはニューヨークで出会い、89年、結婚。アレンさんは結婚を機に日本に移り住んだ。だが10年にハイチは大地震に見舞われる。翌年、アレンさんは「ハイチを日本の人にもっと知ってほしい」と、得意の料理の腕を生かしキッチンカーを開業。ところが、昨秋、55歳の若さで病気で亡くなり、その遺志を継ぎ、美穂さんが営業を続けている。