写真家・安岡佑輔さんの作品展「America’s National Parks」が10月2日から東京・銀座のソニーイメージングギャラリー銀座で開催される。安岡さんに聞いた。
新型コロナが収まったら、すてきな場所に旅行に行きたい! そう思っている人は多いはず。「America’s National Parks」は、そんな日が戻ってくることへの希望が感じられる写真展だ。
日本にはない壮大なスケール感。ダイナミックな自然。アメリカには息をのむ絶景が続く国立公園が数多くある。なかでもユタ州とアリゾナ州にまたがるパウエル湖を中心とした半径約200キロの「グランドサークル」にはグランドキャニオンをはじめ、アメリカを代表する自然公園が点在している。写真展では、このグランドサークルを中心に11の国立公園や地域を写した作品を展示する。
見渡すかぎりの赤茶けた岩、乾燥した青い空、深い緑の原始の森
どこまでも続く赤茶けた岩で覆われた大地。キャニオンランズ国立公園とアーチーズ国立公園の光景は、まるで別の惑星に降り立ったようだ。川の浸食によって深く刻まれた谷。岩の芸術のようなアーチ。よく見ると、アーチの根元にぽつんと人の姿が写り込んでいて、そのあまりの巨大さに圧倒される。
赤い岩と乾燥した青い空が印象的な作品群からとなりの壁面に移動すると、色が緑に一変。シアトルに近いオリンピック国立公園で写した原始の森だ。木々にはびっしりと苔がつき、それが枝からまるでとろろ昆布のように垂れ下がっている。その根元をシダが覆い尽くした神秘的な光景。
さらに移動すると、今度は岩の造形。フードゥーと呼ばれる色鮮やかな無数の岩の柱がひしめくブライスキャニオン国立公園。岩の殿堂、ザイオン国立公園。フォトジェニックな曲線美の岩が目を引くアンテロープキャニオン。コロラド川が深く岩盤をえぐり、馬の蹄鉄の形に大きく蛇行したホースシューベンド。
満天の星を背景にそびえる巨木はセコイア・キングスキャニオン国立公園で撮影したもの。よく見ると、幹の左にアンドロメダ星雲が写っている。そのほかにも、奇妙なきのこ岩で知られるグランドステアケース・エスカランテ国定公園。世界初の国立公園、イエローストーン。映画「シェーン」の舞台となった、グランドティトン国立公園。
最後はアメリカ西部のシンボル、巨大なサボテンが群生するサワロ国立公園で締めくくられる。
アメリカの原風景に魅了された学生時代
開拓時代が思い浮かぶ西部の荒野はアメリカ人にとっての原風景だ。これらの場所を訪れることは、アメリカの原風景に触れる旅でもある。
全米には約60もの国立公園があるのだが、今回なぜ、アメリカ西部に絞って撮り続けてきたのか、安岡さんに理由をたずねると、話は日大芸術学部時代にさかのぼるという。そこでアメリカ近代絵画を代表する女性画家、ジョージア・オキーフと風景写真の巨匠、アンセル・アダムスの作品に影響を受けたという(ちなみに、2人は1929年にニューメキシコ州タオスで出会い、親交は生涯続いたという)。
「オキーフの代表作にシカの頭蓋骨を描いた絵があるんですが、その奥に広がる風景を見て、どこなんだろう? と、思ったんです。先生に聞くと、アメリカで彼女が見ていた風景だよ、みたいな話をされた。それはニューメキシコ州の荒野だったんです。アンセル・アダムスはやっぱり、イエローストーン国立公園で写した間欠泉ですね。彼らが見た風景をぼくも見たいな、と」
ちなみに、今回の写真展はあえて、「ガイドブック的な」立ち位置でまとめている。撮影ポイントまでのアプローチに特に体力や技術は必要なく、「ほぼ誰でも行ける場所」を紹介している。撮影ツアーもある。そこには「この写真を見た人が興味を持って、ぜひ現地を訪れてほしい」という作者の思いがある。
「日本もきれいな場所がたくさんありますが、アメリカの国立公園の風景はスケール感が違う。見渡すかぎりの岩であったり、苔があったり、訪れる場所によって、まったく景色が様変わりするんです」