「モノクロの目」を持つまでに、10年以上かかった
今回の展示作はその流れをくむものだが、モチーフの持つ形態を深くとらえた作品に強く引きつけられる。これらはライカのモノクロ専用機「Mモノクローム(Typ246)」と、今年1月に発売された「M10モノクローム」で撮影したものだ。
ライカによる作品というと、軽快な操作性を生かしたスナップショットが思い浮かぶ。しかし、「今回はライカでしか撮れない質感の描写、においとか雰囲気を感じられるような表現」を目指した。
――以前、カラーで水や花を撮っていたころの作品と比べると、趣がかなり違いますね。
「まるで違います。まず、脳みそが違う。別人になっている、ということです」。そして、胸に手を当て、「被写体に向かう以前に、こっちの状態がまるっきり違います」と語った。
モノクロで撮るときは「モノクロの目」になっているそうで、カラーが目に入ってこなくなるという。
「完全に違う目になる感覚。だから、本気でモノクロで撮っているときはまったく色が目に入ってこない。もちろん本当は目に色は映っているんでしょうけれど、見ているのは被写体のフォルムと、シャドー部とハイライト部、あと階調かな」
ただ、「モノクロの目」を持つのはそう簡単なことではなく、「10年以上かかった」。
「集中しなければならない。モノクロ作品をつくるモードに入ってしまうと、その日はカラーは撮れない。1日中、モノクロですね」
オートを基本にマニュアルの感覚で露出を決めていく
ちなみに、カラーで撮影する際には「撮った画像をほぼそのまま、ノーレタッチで出すんですよ」。
一方、「モノクロは暗室でプリントするとき、覆い焼きとか、やるわけじゃないですか。ここは出していこう、ここは沈めていこうとか、そういう昔のやり方をデジタルでやっている」。
しかし、そう言いつつも、「ぼくはRAWでなく、JPEGをあえて使う。後処理はあまり好きじゃないから。そのまま撮って、後で微調整だけする感じです」。
ワークショップを開催した際、撮影した画像をとなりで撮っている生徒に見せると、ほぼ作品そのままの画像が背面モニターに映っているのにびっくりされるという。
「なぜ、そう撮れるかというと、基本、絞り優先モードで撮るんですけれど、それをマニュアルに近い状態で使っているから。例えば、ハイライト部とシャドー部がはっきり分かれている被写体は、どっち出す、どっち引く、というところがポイントになる。そこを露出補正というより、マニュアルの感覚で露出を決めていく」
モノクロ撮影の極意を解説していただいたのだが、残念ながら、それを文章だけで伝えるのは困難だ。
「新型コロナでなかなか難しいんですが、もし、写真展会場でトークショーができれば、そんなことも話せると思うんです」
(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)
【MEMO】江口善通写真展「Zen~Paris-Tokyo-Kyoto」
ライカGINZA SIX(東京・銀座) 10月1日~2021年2月2日
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