写真家・江口善通さんの作品展「Zen~Paris-Tokyo-Kyoto」が10月1日から東京・銀座のライカGINZA SIXで開催される。江口さんに聞いた。
今回の写真展にはベースとなった展覧会がある。それは、昨年秋にパリで開いた「善-Zen」。それまで江口さんはアメリカで写真展を開催したことはあったが、ヨーロッパではこれが初めてだった。
「ヨーロッパに出て行って、向こうのアーティストと並ぶ。そこには自分の強みを出さないと戦えないな、という思いがあった。それで、こういうかたちになったんです」
パリの写真展では高野山の修行僧など、「ジャパネスク的な作品もけっこう入れた」。しかし、今回はそういった写真を外し、新作を加えた。被写体と向き合い、凝視するように撮影した作品13点を展示する。
タイトルと撮影場所は何の関係もないんです
縦1メートル、横1.5メートル。ひときわ大きな作品は、最初、何だかわからなかった。抽象的、というわけではなく、むしろ精緻。草の生い茂った斜面にたくさんの鍋が捨てられている、不思議な光景。よく見ると、鍋ではなく、ひしゃくだ。しかも底がみな抜けている。柄の部分を地面に突き刺したものもある。
「これは安産祈願なんです。山梨県の身延山。久遠寺に行く途中に小さな祠(産宮神)があるんです」
ここに穴の開いたひしゃくを奉納することで、安産を願うらしい。
写真展案内に使用した作品は、なんとも地味な「土嚢」である。いや、むしろ大胆に攻めている、とも見える。そして、「これは神奈川県、横須賀の猿島です」。
説明を聞いているうちに、なんだかもやもやした気分になってきた。
--写真展のタイトルは『Zen~Paris-Tokyo-Kyoto』なんですが……。
「タイトルと撮影場所は何の関係もないんです」
--えっ?
「当初は、このタイトルにあるように、パリで開いた写真展を京都、東京に持ってくる予定だったんです。ところがこの新型コロナで、京都の写真展が1年延期になった。そんなときにライカからお声をかけていただいて。タイトルはそのままで」、ということだったらしい。
それまでの評価もうれしいが、もう自分のやりたいことを
1961年、東京都生まれの江口さんは、もともと写真ではなく、ファッションの世界に生きてきた。イッセイ・ミヤケデザインスタジオを経て独立し、独自ブランドを立ち上げ、ファッションデザイナーとして活躍。その後、97年に写真家に転身した。
江口さんとライカとの付き合いは10代にさかのぼる。
「古ーいやつ、なんですけどね。親戚のお古みたいなのをもらって、いじりだした。その後は中古で安いのを買ったり」。ただ、「そのころは遊びで使う程度で、ライカで作品を撮るようになったのは10年くらい前から。M3とM6を使っていました。フィルムはトライXかTマックス400。ほとんどモノクロで撮ってましたね」。
とはいうものの、フィルム時代の作品は主にカラーで写したもので、水や花などの被写体を「印象派の絵画的に撮る、というテーマでずっとやってきたんです」。そして、その独特の色が評価されてきた。
ところがデジタルの時代になった6年前、作風を一気に変えた。「それまでの評価もうれしかったんですけど、もう自分のやりたいことをしようと思って」、写真展「GR_mono_」では、すべて作品をモノクロで構成した。