いつから梅干しは柔らかく優しく甘くなったのだろう。いわばスウィーツ。お菓子感覚で食べられるものになってしまった。
私なりにその理由を考えてみると、戦後、物のない時代に甘いものは貴重だった。砂糖は手に入らず、サッカリンやズルチンなど代用品で間に合わせた。
その延長で、今でも甘いものはいいものという考えがこびりついている。
日本に限らない。私はエジプトで半年暮らしたことがあるが、アラビア語で砂糖など甘いものを「ソッカル」という。ラマダン(断食月)明けや、結婚式などのお祝いの席では甘い菓子と紅茶が出る。
アラブではお酒を飲まないから、おめでたい時には「ソッカル、ソッカル」。甘いほど重用される。
日本人もいまだに「ソッカル」がいいのだろうか。私は断然しょっぱい梅干し派。昔から言う。「甘いわなに注意せよ」と。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2022年7月15日号