あるときフルタイムで働く母親にたずねたら、
「ちゃんと作ってますよ」
といった。
「それは偉いわね、どんなものを作るの」
とたずねると、それがレトルトのカレーだったりパスタだったり、カップ麺だったりする。そういった親にとってはレンジでチンしたり、お湯を注ぐのが、立派な料理という感覚なのだ。そこで彼女が、
「それは料理じゃないでしょ。どんなものを作るの?」
と聞くと、ぽかんとして話が続かない。こんなやりとりは何年も前からずーっと続いていて、知人は、
「今年こそ改善されているのでは」
と期待して聞くのだが、毎年同じ答えが繰り返されている。
「それじゃ、お子さんがどんなものを食べているか教えてくれる?」
すると親は、朝食は菓子パンと牛乳とバナナ。昼は給食。おやつはお金を置いておくので、塾に行く前に好きなものを買って食べている。夜はデパ地下か、時間が間に合わなかったらコンビニで買って帰る。自分も子供も肉類が好きなので、ハンバーグや中華料理が多く、和食の煮物などは買わない。そしてお風呂から上がったら、一年中、親も子も寝る前にアイスクリームを食べるのが日課なのだそうだ。休みの日は昼はファミリーレストラン、夜は回転寿司か焼き肉を食べに行く。
「はあ~」
彼女が脱力していると、今度は母親のほうがきょとんとしている。何とか話をつなげようと、
「御飯は炊いているのよね」
と念のためにたずねても、
「いいえ、パックのものを買ってきて、レンジでチンしてます。炊飯器の内釜を洗うのも、結構、面倒くさいんですよね」
という答えが返ってくるのだった。
知人が、明らかに野菜が少ないこと、小学校の低学年の頃から糖分、塩分、油分の多い食事を食べさせるのは、たまにはいいけれど、日常的にはよくないのではと話すと、母親は怒りだし、
「私はちゃんとやってますっ」
と目をつりあげていい放った。知人は心の中で、ひえ~と叫びながら、とりあえずは母親の話を聞いた。