「よっこいしょと言いたい瞬間を笑いに変え、疲労感を下げ、場を和ませる。誰かが最初に言い出したのではなく、各地のダジャレ好きが思いついて各々使ったのだと思います」。72年に発生、根付き始めが74年頃。それが笹川さんの見立てだ。

 私が「よっこいしょういち」を初めて聞いたのは、18年9月、星屑スキャットのライブ。ミッツ・マングローブさんがさらりと使っていた。遅すぎ「よっこいしょういちデビュー」(?)も義憤の一因かもと思いつつ、ミッツさんに話を聞いた。

 その日の言葉のことは覚えてなく、「メンバーの中でバカバカしいことが流行(はや)っていたのではないでしょうか」。自身は75年生まれだが、74年に「よっこいしょういち」はすでに使われていたと思うという。

「72年に横井さんという存在が、旬な社会現象になったわけです。社会現象が起きればジョークも生まれるのは必然。それをみんなが使い続けても不思議ではないと思います」

 社会現象は常にポジティブで平和なものとは限らない。事故、病気、事件、戦争もある。「それでもキャッチーな言葉は、物事の本質と違うところで伝播していきます。それに、その時々の旬な人の名前の前に『こんばんは』とつけて言いたくなるのが男なんです」

 5月、沖縄県の玉城デニー知事が会議の前に「ゼレンスキーです」と発言、撤回した。「わからないけど、同じ現象ではないでしょうか」とミッツさん。玉城知事は「他意もなく、不用意に発言した」と釈明していた。

 確かにオヤジギャグとは他意なく、不用意なものなのだろう。74年のよっこいしょういちに憤る私は、ミッツさんの「オヤジギャグをオヤジギャグだと論(あげつら)うのはほとんど女なんです」という分析そのものだ。最後に、冒険の道中で見つけた小さな情報を。16年、妻の美保子さんが「婦人公論」で「横井さんと平和」を語った。そこで触れたのが野菜作り。

<私は豆類が好きで、横井はよく、「うちには鳩がいるので、豆を作らなきゃ」なんて言っていましたよ。(笑)>

 温かでユーモラスな横井さんにたどり着いた。冒険もこれで終えよう。

週刊朝日  2022年7月15日号

暮らしとモノ班 for promotion
大人のリカちゃん遊び「リカ活」が人気!ついにポージング自由自在なモデルも