毎回ギリギリの判断をしながら接近していく
しかし、そこには常に葛藤がある。彼らの世界に「どこまで踏み込むか」。
「例えば、貴重な種であればあるほどその動物を保護しなければならないわけです。でも、ぼくの仕事はただ遠くから見守るだけじゃなくて、ある程度切り込んでいかなくてはならない。その過程で必ず何らかのストレスを動物に与える。なかなかリスキーなことだと思っています」
見方によっては好ましくない行為であり、実際にそれを指摘されることもある。
「でも、『動物を守る』ことだけを考えて、物理的にも精神的にもすごく距離をおいて撮ったところで、写真として何の意味もなさない。ぼく自身の命をかけて撮るというか、魂がこもったものでなかったら写真家なんてやっている意味はないと思うんです」
危険でないか、動物に過度なストレスを与えないか、毎回ギリギリの判断をしながら接近していく。
「例えば、オランウータンのでっかいボスに近づいていって、嫌だなと思われたら殴られる。そういう結末になると思うんですね。それはまだいいかな、と思って」
サブタイトルに込められた覚悟
実際、「ツッコミすぎちゃうこともある」と言う。
その結果、ニホンイノシシに「尻やふくらはぎを何度か噛まれ」、ヤクシマザルの「オスたちに取り囲まれ、叩かれたりもする」。
<そんなときは逆らわず、じっと動かずされるがままにしている。そうすると大抵の場合、危険なやつでは無いとサルたちに伝わり、ある程度のことは放っておいてくれる。その上で、様子を見ながらシャッターを切っていく>(ヤクシマザル)
プロ、アマチュアを問わず、野生動物の撮影に対してさまざまな意見があることは承知している。その上で、最終的に自分で決め、責任を持った行動しなくてはならないと言う。
本書のサブタイトルは「肉体の奥に秘められた魂に焦点を合わせる」。そこには前川さんの覚悟が込められている。
(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)