仕分けは午前中に終わり、食卓に料理が並べられていた。御飯ものは鮮魚店の海鮮巻き鮨、太巻き、いなり寿司がひとつのお皿に盛られ、人参しりしり、和風コールスロー、無限ピーマンは八つに仕切りのある濃い赤色のお皿、インゲンと玉ねぎの豚肉巻きはお皿と同色、同素材の小さなボウルに入れられていた。野菜類が盛られていたお皿はあまり見たことがないタイプだったので、どういうものかと聞いたら、赴任先で購入したフォンデュ用のセットと教えてもらった。

 娘さんからは、若い女性の「タピオカ中毒」の話を聞いた。私は中華料理のデザートに出てきた、白いココナッツミルクがかかった、透明の小さな粒のものしか知らない。しかし最近人気があるのは、薄茶色の液体に浸かった、黒い大きな粒である。それを太いストローで吸っている。あれは本当にタピオカなのかと尋ねたら、タピオカ自体に黒砂糖で味をつけているので、黒くなっているのだとZさんと娘さんが教えてくれた。

「そのうえミルクティーも甘いんですよ」

「えっ、それじゃあ、甘い液体の中に甘い粒が入っているんですか」

「そうなんです」

 娘さんの周囲の若い女性のなかにもタピオカ好きがいて、人気のある店を二軒、三軒とまわるのだそうだ。しかしタピオカはスイーツとはいえ、もともとは芋なので、お腹がふくらんでくる。そうなると御飯が入らなくなる。しかし御飯やパンは食べられなくても、つるつる入ってくるタピオカだったら口に入れられる状態になってしまうらしい。それらにカロリーはあるかもしれないが、ミネラル類はいったいどうなっているのだろうかと心配になってきた。

 そんな話をしながら食べた料理はどれもとてもおいしかった。人参しりしりは人参のほかに卵のみ。和風コールスローは、キャベツを千切りするのが大変なので、市販の千切りのものを使い、ひじき、人参、ハムが入っていて、マヨネーズ、出汁の素、ポン酢などで味付け。無限ピーマンは胡麻油でいため、めんつゆで味つけをし、おかかと和えてあった。インゲンと玉ねぎの豚肉巻きは、インゲンを肉の幅に合わせて切り、千切りにした玉ねぎと一緒に豚肉で巻いて、みりんと醤油で煮る。時間がかかって、思うようにきれいに細くできないキャベツの千切りに、市販品を使うのもありだなとうなずいた。

 どれも長時間かかる料理ではないが、こういった献立でもいいのだと勉強になった。私は不精なので、なるべく最少の手間で十分な栄養を摂ろうとするので、これらの材料が目の前に並べられたら、全部煮るか、炒めてしまうかもしれない。しかしそのような、よくいえば手間なしの栄養効率のいい一品、悪くいえばごった炒め、ごった煮のようなものでいいのかと、最近、疑いはじめた。御飯とひと皿と汁ものではなく、ちゃんとトレイの上で、ひとつの食事のたたずまいを調えたいと思うようになった。一汁一菜から「菜」の数を増やそうと思いはじめたので、こういった料理はとても役に立った。もしかしたら私はこの年齢になってやっと、料理上手に近付こうと意識が変わってきたのかもしれない。

※『一冊の本』2019年10月号掲載

※本記事のURLは「AERA dot.メルマガ」会員限定でお送りしております。SNSなどへの公開はお控えください。

暮らしとモノ班 for promotion
7月16,17日開催Amazonプライムデー。八村塁選手が厳選するアイテムは?