「こんにちは、と言ったら、お母さんが覚えていてくれて。『あら、あなた1年前に来た、日本人じゃない』と言って、すごく歓迎してくれました」
質素ながらもたくさんのごちそうが並べられた。ブドウの葉でコメを巻き、スパイススープで煮込んだ料理。鳥のまる焼き……。
「ああ、難民にもてなされた、と思って」
またひとつ、ステレオタイプ的なイメージが崩れた。
「ドンパチやっていないと誰も来てくれない」
いま、パレスチナ問題に対する国際社会の関心は冷めきっている。ヨーロッパ各国はシリアからの難民の流入を警戒し、アメリカはイランとの対立に目を向ける。トランプ大統領は就任以降、露骨にイスラエルへの肩入れ続けている。
「パレスチナ人自身のこの問題に対するあきらめムードをすごく感じました。もう、力ではイスラエルに明らかにかなわないというのがわかっている。されるがまま、とまでは言わないですけれど」
「いろいろな人に、この現状を伝えてくれと、言われました。ドンパチやっているときはいろいろな国からジャーナリストがやってきて取材していくけれど、そうじゃないときは誰も来てくれない。忘れられているようでつらい。どんどん記録して、日本の人に伝えてほしい、と」
作品タイトル「私たちが正しい場所に、花は咲かない」は、イスラエルの国民的詩人、イェフダ・アミハイの詩の題名を拝借したもの。
「自分たちの正義を相手に押しつけると、対立を生んだり、分断を生んだりする。この紛争は、特にイスラエル側からは、聖地を巡る争いとか、宗教紛争ととらえられがちです。でも実際は、自分たちが安心して暮らせる場所、ルーツとして根ざせる場所を守りたいという思いがぶつかり合っている。どちらが正義で、どちらが悪とか、単純に断じられるものではないと感じましたね」
紛争取材は自分がやるべき仕事ではない
作品展を締めくくる写真はエルサレム郊外にあるユダヤ人墓地。木々が点々とある草地の中に崩れたような白い墓石が見え、古代の遺跡のようだ。
それを相照らすようにアラブ人墓地も写している。こちらは新しく、丸いアーチを描いた墓石が陽光に照らされ、周囲には野花が茂っている。
いわゆる、最前線の現場を撮りたいという気持ちはないのか?
「ないですね。いま、誰でも写真が撮れるようになって、写真家が行って撮る意味って、何だろうと思うんです。最前線で撮られた写真を見ると、すごい、とは思いますけど、自分がやるべき仕事ではないな、と。自分自身が何者であるか、ということをイスラエルのホテルですごく考えていました。これはオンゴーイングのプロジェクト。まだまだ、やりたいことがたくさんあります」
次回はブラタモリではどうだろう。
(文・アサヒカメラ 米倉昭仁)
※ 小田実は世界22カ国を放浪し、体験記『何でも見てやろう』で一躍有名になった作家。
【MEMO】小山幸佑写真展「私たちが正しい場所に、花は咲かない」
銀座ニコンサロンで7月29日~8月8日、大阪ニコンサロンで8月27日~9月2日に開催。