風刺名画集『永田町絵画館』の販売も自分でする(撮影/加藤夏子)
風刺名画集『永田町絵画館』の販売も自分でする(撮影/加藤夏子)

■笑ってもらうことが仕事、不愉快になることはしない

 福本は舞台に立つ者として「支持政党や政治家の好き嫌い、自分の私生活は口にしないことにしている」という。テレビから声がかからなくなったことを尋ねると、「今の世の中、だれでも面倒なことは避けたい。仕方ないことです」と答えた。モノが言えない社会になった、とは思わない。ネットでは言いたい放題だ。立憲民主党の党大会にも呼ばれたし、日本共産党の赤旗まつりでもコントをやった。

「笑ってもらうのが私の仕事。目の前のお客様が不愉快になることはしません。忖度しまくりです」

 コント集団を仕切る演出の寺田は「私たちは運動をしているわけではありません。集団としての思想なんて、ないですから」という。

 政治ネタを扱えば、笑いのツボに賛否や好き嫌いが絡むだろう。モノサシは人によって違う。どこに線を引いて受けを狙うのか。昨年10月の政局を例に、福本はこう説明する。

 消費税が上がり、庶民は負担増に喘ぐ。軽減税率やポイント還元は分かりにくい。政権批判が出そうな時に、いろいろ起きた。まず菅義偉官房長官の側近で、経済産業大臣だった菅原一秀が選挙区内の有権者に贈っていたカニ・ウニ・メロン。まるで昭和、恥ずかしいと思っていたら、今度は関西電力幹部が受け取っていた菓子折りの底に小判。もう江戸時代だ。とても分かりやすい悪役が登場した。「関電さん、ありがとう。このタイミングで出てきてくれて」。安倍は絶対に言わないが、心の中でそう思っているはずだ。「安倍さん、きっと喜んでいるよね」と観客が共感すれば、ドッと笑いが来る。福島でも北海道でも笑いが来た。

 「このタイミングで関電が出るよう、仕掛けたんです」とまで言うと、聴衆は引く。悪口や攻撃と受け取られ、共感は生まれない、というのだ。

「20年前は、自民党を叩けば喝采という時代だった。今は自民党の悪口だけでは受けません」。山本はいう。政治状況も人々の意識も微妙に変わり、脚本家も役者も変わった。

「多様性が大事、なんて言われますが、うちも同じです。時代は変わり、役者も様々。いろんな人たちが見に来ますから」と渡部。食えない芸人が始めた「反骨の舞台」は平成を駆け抜け、「食える劇団」になった。

 劇団が生まれた頃、高校生だった福本は、福岡に出て、上京し、銀座の舞台で人気者になった。安倍を嫌いな人も、嫌いでない人も、首相夫人も、一緒に見られるコントを演じ、風刺似顔絵を描く。

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