公演前の立ち稽古。それぞれが脚本を書いて持ち寄り、コントのネタを噛み合わせる(撮影/加藤夏子)
公演前の立ち稽古。それぞれが脚本を書いて持ち寄り、コントのネタを噛み合わせる(撮影/加藤夏子)

 似顔絵を始めたきっかけは民主党政権の末期に演じたノダ首相。レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」をコントにして、「この中に裏切り者がいる」「ユダだ。いやノダです」とやった。名画からネタを考える担当になり、画集をめくる機会が増えた。画家と作品の接点、時代背景など知ると絵の面白みは深まる。悩み、考えることが多い日常からはなれ、美術館で絵の前に立つと不思議に落ち着く。歴史や世界遺産にも興味は広がった。勉強が楽しくなり、図書館に通うようになった。

 名画を素材に政治家のパロディーを描くようになる。風刺似顔絵は、舞台と絵画の融合。画廊に勧められ個展を開き、名画に笑いをまじえて解説する講座を開くようになった。劇場ファンとはまた違う人たちの「役に立つ」ことが楽しい。

 アベ首相役は15年になった。首相役は出番が多く、集会やパーティーに呼ばれる。首相公邸のクリスマス会にも2年連続で呼ばれた。きっかけは安倍昭恵だった。ネットに公開したアベ首相の写真に「似ている。拡散します」と書き込みがあった。メールのやりとりが始まり、「風刺似顔絵展」に招待した。

 絵を届けることを口実に公邸を訪れた。この国の首相がどんな所に住んでいるか見てみたかった。電動式の扉が開いた時「ただいまー」と言ってみた。山里から首都へ。リアルな政治の中枢にフェイクな自分が攻め入る奇妙な高揚感。訪問が縁となり、クリスマス会の余興として呼ばれた。首相は30分のコントを立ったまま楽しげに見ていた。

「お腹の病気」をネタにしていたことを詫びた。難病であると分かってからは触れないようにしたが、それまで「笑いのネタ」に使っていた。「いいよ、そんなこと」と昭恵がとりなしてくれた。

「公演のたびに首相夫人からお花が届くそうだが、権力者とそんな関係になって風刺コントができるのか」

 創立の頃、脚本を書いていた松崎は首を傾げる。風刺とは権力者の本質を射抜くことではないのか。親しくなれば遠慮が出る、遠慮したら風刺は鈍る。「左翼芸人」を自任する松元は「どっちつかずの中立を装うと、メッセージは曖昧になる。立場ははっきりさせなければ」という。数年前、福本から届いた年賀状に「テレビから声がかからなくなりました」とあった。であるなら、もっと鮮明な主張を期待したい、という。

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