イラスト:オカヤイヅミ
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 私がよく行く、大きめのスーパーマーケットでは、同じ品物なのに複数の産地のものを置いている場合がある。たとえば私がいつも購入する小松菜については、東京、群馬、京都、島根、福岡など、五か所の産地のものが置いてある。ふだん使う頻度の高い野菜に、そのような傾向があり、どうしてそんなに必要なのかと、いつも不思議に思っている。

 あるときその店で、マイバッグを肩から下げた、大学生風の若い男性が半分にカットされたキャベツを手にしたまま、ずーっと考えていた。どうしたのかと見ていたら、それを元の場所に戻すと、今度はその向かいの平台に積んである、同じようにカットされたキャベツを手にし、そこでまたじーっと考えている。するとまたそれを置いてさっきの場所に戻り、再びキャベツを手に取っている。通路を挟んだキャベツ売り場を、何往復もしているのだった。

 彼の手にしたカゴには、パスタ、ほうれん草、タマネギ、にんにく、トマト、卵、チーズ、冷凍エビ、カットフルーツのパックなどが入っていて、自炊をしていることがうかがえた。しかしあのキャベツに対する真剣さは何なのだろうかと、気になって仕方がなかった。そんな彼を私がいつまでもじーっと見ているのも変なので、必要な食材をカゴに入れつつ、(どうしたのかな、何を考えているのかな)と彼の様子をうかがっていた。できればとっても社交的なおばちゃんがやってきて、

「ちょっと、お兄さん、どうしたの? 何か困ってるの?」

 と彼に声をかけないかしらと期待したが、そういう人は現れなかった。残念ながら私は「なぜ?」という気持ちを抱えたまま、店を出たのだった。

 それらのキャベツは産地は違っていたが、価格的にはそんなに変わらなかったはずだ、それをあんなに悩むなんて、よほど彼のなかで迷う何かがあったのだろう。価格の差の十円、二十円が大事だったのか。鮮度に差があったのか、私が現物を比較していないのでわからないが、食材を買うのにあんなにまじめな顔をしているところを見ると、まじめすぎるくらいに料理を作っている印象だった。

 昨日、録画したままになっていたテレビ番組を観ていたら、そのなかにEテレの「#ジューダイ」という番組があった。特集が、「ひとり暮らしをはじめる君へ 食生活応援編」だったので、録画しておいたのだ。実家を出た若者が自炊をするためのアドバイスが中心になっていて、二〇一八年に事故で急逝された辰巳渚さんの、二〇一九年に発売された著作、『あなたがひとりで生きていく時に知っておいてほしいこと』がベースになっていて、内容が一部ドラマ仕立てになっていた。

 MCはヒャダインとぺえのお二人。番組内のドラマに出演した俳優・モデルの高橋文哉、タレントの大原優乃の若者二人も出演していた。彼は今年、彼女は二〇一八年に高校を卒業したという。他にも彼らと同年輩の一般の女性三人、男性二人が収録に参加していた。

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