<動植綵絵>をはじめ、アニミズム的世界観に則った色鮮やかで特異な画風で知られる江戸時代中期の絵師・伊藤若冲は、「私は理解されるまでに1000年のときを待つ」との言葉を残しているという。その意味を、長らく忘れられていたこの天才の再評価の立役者となった美術史家が、豊富な図版をかたわらに詳細に読み解いていく。
この絵師が、独創的な技法を駆使しながらいかに彩色に意を砕いていたか、屏風を無数の升目に区切り、そのひとつひとつを彩色していく、世界にも類例を見ない「モザイク画」をいかにして生み出していったかなど、著者の解剖は徹底して若冲の視点に寄り添っている。
新出資料から浮上した、有能な町年寄としての若冲の意外な一面も覗けるこの本を通じて、在宅での美術鑑賞を満喫したい。(平山瑞穂)
※週刊朝日 2020年6月12日号