ほどよい広さの画角でオールマイティーに使える35ミリという焦点距離。これを使いこなしてワンランク上を目指そう。35ミリレンズをこよなく愛する写真家・赤城耕一氏が実践的な使い方を指南する。
【写真】ハッセルブラッドの35ミリ判換算の画角で撮影したショットはこちら
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世界中のすべての35ミリレンズを所有するのが夢だと、今日に至るまで公言してきた。それほど広角35ミリレンズを愛する私である。その理由を簡単に述べてみよう。
まず標準50ミリレンズと比較すると少し広めの画角なので、肉眼の視角と比較しても大きな違和感がない。
カメラを水平に構えるとパースペクティブの誇張は小さくなり、標準レンズ調の写真にもみせることができる。逆に仰角にすると、いかにも広角レンズを使いましたという雰囲気が出る。
さらに絞りの効果で被写界深度が大きく変化するため、雰囲気が大きく変わる。35ミリレンズは被写界深度がそこそこ深く、少し絞り込めばパンフォーカスに、絞りを開けばボケの大きな写真ができる。
この3点が35ミリ最大の魅力なのである。
ちなみに大口径F1.2~1.4の35ミリレンズを絞り開放で撮影すると、不思議な雰囲気の写真になることがある。画角はそれなりに広いのに、被写界深度が極端に浅く、謎めいた雰囲気になるからだ。焦点距離はExifを確認しないと判断がつかないほど。
逆に開放F値を抑えぎみな35ミリレンズも小型・軽量のモデルが多く魅力的だ。また35ミリは最短撮影距離が短いものが多く、簡易的なマクロレンズとしても使うことができる。つまり35ミリは中庸でかつ平凡な存在であると同時に万能性をもつレンズなのである。
ここで少し長くなるけど偉大な先達写真家、土門拳の言葉を引用して助けを借りる。
「ぼくたちがものをよく見定めようとする時、近寄ったり、上半身を乗り出したりして、必ず一旦静止するが、その静止した時の肉眼の位置に35ミリのワイド付きのカメラを据えた時が、一番肉眼とレンズとのズレが少ないのである。いわば35ミリのワイドは、眼を頼りとするぼくたちの普段の行動と一致しているのである。」(35ミリのワイド-その戦後的な意義-『写真作法』ダヴィッド社)