美術教育の日本最高峰、東京美術大学。エリート揃いの学内で、一際厳しい油画科の森本ゼミ。そこに集まった学生4人の、卒業制作に向けての奮闘を描いた青春小説。

 初日の授業から「もう少しまともなものが描けると思った」「親のコネを使って入学したのか?」と厳しい言葉を吐く森本に、学生たちは自信を失う。森本に作品を否定される日々に、彼らの精神はすり減ってゆく。更には、「自分の表現」を見つけるために「三日間の断食の後に画を描く」というハラスメントとも取れる課題を課される。

 指導に耐えきれずに就活を始める者。認められなくとも描き続ける者。学生たちの葛藤と苦悩が各々の視点で描かれる。将来への不安、焦りに押しつぶされそうになりながらも、芸術と向き合う若者の姿が美しい。(二宮郁)

週刊朝日  2020年4月3日号