表題作は東北の寒村の村長選を描いて芥川賞候補となった。幼なじみの候補と対立する陣営の応援に回った村議の「おれ」の視点で語られる。
スキャンダルを握られ、裏切りにいたる事情は現代社会の映し鏡のようだ。主人公の訛りあふれる言い訳は太宰治の短編「駈込み訴え」と重なり、ある名作映画のような終盤の展開も読ませる。
併録の「天空の絵描きたち」は、高層ビルで働く窓拭き作業員たちの物語。新人の若い女性の視点で、ロープに身を託す職人の世界が臨場感たっぷりに描かれる。あることをきっかけに仲間うちの猥雑な会話や気さくな空気が一変し、経営側と職人たちが衝突する展開は、読みながら身がこわばる。
「責任者が責任感じなくて、どうすんだ?」の台詞が、読後脳裏に刻まれる、重量感のある作品だ。(朝山実)
※週刊朝日 2020年3月13日号