「男はつらいよ」といえば、意識して観たことはなくても、場面の様子が自然と頭に浮かんでくる。それくらい、日本人にとって、心の原風景の一部となっているシリーズだ。
このたび、時代を超えてその「最新作」が公開されたことに寄せて、大の寅さん好きとしても知られる芥川賞作家が、過去のシリーズから名台詞をピックアップして紹介している。台詞のよさがわかるように、「場面」単位で抜き出しているのが心憎い。
脚本が、そのときどきの世相を実に丁寧に反映させていること、意外にも一貫して「女性の自立」をフィーチャーする筋書きになっていることなど、はっとさせられる点も多い。失恋してばかりいる寅さんの恋愛指南もおもしろい。
なじみがなかった人でも、シリーズに興味が持てること請け合いだ。(平山瑞穂)
※週刊朝日 2020年2月14日号