不登校になったって、生きる道はいろいろあるよ、ということを伝えていきたい
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 夏休みが終わる9月1日前後に、18歳以下の子どもの自殺が増える。新学期を前に、追いつめられた子どもが命を絶ってしまうのだ。でも、石井志昂はこう言う。「学校だけが生きる道じゃない」。それは中学から不登校となった石井の経験から来る言葉だ。「不登校新聞」の編集長となった今、当事者の立場に立ち、声を届ける。もう誰も命を落としてほしくない一心で。

「不登校は何歳ぐらいからですか?」

 そう質問の口火を切ったのは「不登校新聞」編集長・石井志昂(いしい・しこう)(37)である。取材相手は不登校経験のある30代の男性だ。

 「不登校新聞」とは、不登校の当事者や親などを対象にした専門紙である。創刊は1998年。同紙を一躍有名にした出来事がある。2015年、過去42年間の累計日別自殺者数を内閣府が分析し、18歳以下の子どもの自殺が多いのは9月1日前後であることを発表した際、不登校新聞が各メディアに先駆けて報じたのだ。
 
 さらに一般メディアの反応がないとみるや、文部科学省で記者会見を開き、新聞社やテレビ局にこのデータの重要性を訴え、ようやく取り上げられることになった。それが、「学校に行きたくなければ無理に行かなくてもよい」という社会認識を広げる一つのきっかけとなった。
 
 冒頭の男性も中学1年の夏休み明けに学校に行けなくなった。いじめが原因の場合も多いが、彼は、宿題が手つかずで、叱られたくないという理由からだった。これも典型的な原因だと石井は言う。
 
 学校を長く休むようになると、死にたい気持ちを抱く場合が少なくない。だから不登校について語るとき、石井は真剣かつ慎重になる。ただ深刻ではなく、ときに明るく語る。なぜなら、不登校経験者やその親などを約400人取材してわかったことがあるからだ。それは学校に行けなくなっても人生が終わるわけじゃないということだ。
 
 前出の男性もフリースクールを経て、高等学校卒業程度認定試験(高認)を受け、25歳で大学入学、いまは福祉の仕事をしている。石井は言う。

「生きてさえいれば、生きる道はたくさんあるんだよってことを、当事者や経験者のナマの声によって伝えていくのが私の仕事だと考えています」

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