肝をすえて何枚も書き抜いていくと、飾るものなど何もない「自分」に出くわすことがある
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 この参院選で、立憲民主党は改選前の議席を大きく伸ばした。2017年に民進党から分裂する形で立憲民主党は結党。福山哲郎は盟友・前原誠司と袂を分かち、立憲民主党へ入党すると、幹事長として代表の枝野幸男を支える立場となった。子ども時代は貧しく、父の暴力に悩まされ、一度は高校をやめて働いた。絶望も希望も味わったからこそ、実現したい政治がある。

 参議院選挙が終わったある日、福山哲郎(ふくやま・てつろう)(57)の姿は地元、京都にあった。クーラーの利いた畳敷きの和室には毛氈(もうせん)が敷かれていて、書道の稽古の真っ最中。しっかり筆に墨を含ませて「敦惠(とんけい)」と書く。この言葉は、中国・晋の時代の政治家・陸機(りくき)のもので「誠実で人情に厚く、思いやりがあり情け深い」という意味だ。ゆっくりと、しっかりと。丹田(たんでん)を意識し、静かに筆を運んでゆく。

「党の幹事長を引き受けてからは、書に集中する時間を確保することが難しくなりました。それでも、作品展に出品する前は、深夜、誰もいない議員会館の机で、筆を握ることもあります。書は寝ている時間以外で、政治を忘れ無心になることができる貴重な時間ですから」

 2017年10月の結党以来、初めて立憲民主党の幹事長として臨んだ参議院選挙。獲得した議席は17(比例8、選挙区9)。改選前の9議席から大幅に議席を増やした。しかし、結党直後の総選挙で55議席を獲得し、野党第1党に躍り出た同党に期待されている数字は、明らかにそれ以上だった。

 その上、改選2議席を争う京都では、立憲民主党から出馬した増原裕子(ひろこ)(41)が、共産党の現職に1万4千票あまりの僅差(きんさ)で劣敗していた。新人候補の敗北は現職の責任。けれども、党の要職につく以上、地元にばかりへばりついているわけにもいかない。全国を飛び回りながらの選挙戦を強いられた。

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