「一人暮らしでも料理をすれば自分を大切にできるし、生きていることを実感できる。やる、やらないは自分の問題。料理は自立です。何かに依存せず生きるのが自立。自立して初めて自分で判断できます」
土井さんいわく、大昔の人々の思想を今に伝えているのが日本の食文化の特徴。だが、今後もタスキをつなげるかは怪しい。
「人それぞれですけど。文化をつなぐという意味では、日本の食文化が一番壊れているかもしれない。西洋の合理主義には彼らなりの哲学があります。西洋人のように生きている私たちは西洋の哲学も知らず、自国の文化の意味も知らない。信じるものがないのは不安だし、弱さ」
とはいえ、一筋の光明も。日本文化の振興に貢献した人物として、2022年度文化庁長官表彰者に土井さんが選ばれた。料理を、文化として。家庭料理を追求してきた土井さんに。
「家庭料理に目を向けてくださったのが、何よりもうれしかった。家の仕事を担ってきた日本のお母さんが褒められたことないんですよ。暮らしの中に私たちの幸せがあるんです」
※AERA 2023年1月16日号