こうしたニュースソースに対しても遠慮のない報道は、日経にはないだろう。

 アレックスのFTへの入社は、2005年9月。2年間の研修の後、正社員に採用された。現在はグローバル・メディア・エディターとして、メディア全般について書くとともに、デスクの仕事もしている。昨年は、部下の女性記者とともに、ポルノ産業の歴史とファイナンスについて半年間調査をし、それを、ポッドキャストの8本、計320分の番組にまとめている。

 11月中旬に、日本のメディアの予備調査のために来日して、私に取材をしたことで知り合った。上智大学近くの焼鳥屋で、日本酒を傾けたが、「Sake with Shimoyama」の企画として私も少々厳しい質問を──。

「日経についても同様に厳しく書くこともあるのか?」

 これについてはあっさりと「ない」と。

「英国の新聞は、自社のことについては書かない。FTもFT紙自身のことについては、書いてこなかった。これは日本経済新聞がFTを買収する前から、そうだった」

 それも「FTの流儀」なのだそうだ。

下山 進(しもやま・すすむ)/ ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文藝春秋)など。

週刊朝日  2022年12月23日号

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。標準療法以降のがんの治療法の開発史『がん征服』(新潮社)が発売になった。元上智大新聞学科非常勤講師。

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