前号で、FT紙には日経にない、もうひとつジャーナリズムにとって重要な資質、「スキャンダリズム」があると書いたが、この記事はその証左だ。
アレックスの「Lunch with the FT(FTと昼食を)」でも、その健全なスキャンダリズムは充分に発揮されている。
マーティン・ソレルは、WPPをやめたあと、デジタル広告の会社を興し、コロナ禍のなか成功していた。
前菜やメインの際には、こうしたビジネス上の成功についてアレックスは聞いているが、プディングが注文される段になると、厳しい質問をくりだしていく。WPPをやめる理由のひとつとされたソレルのパワハラについて。
あなたのことを恐怖に思っていた人々がいることを知ってましたか?
「そんなのは神話だ!」
そして経費の問題。60万ドルとも言われた疑惑の出費について、いくらかでもWPPに返却したのか?
「NO no no」
買春についてもアレックスはこう畳みかけた。
「50A Shepherd Marketを実際に訪ねたのか?」
「売春婦を訪ねるのは、CEOとしての過ちになるのか?」
それに対してソレルはこう答えたことになっている。
「会社は、きちんと調査をし、その結果は君も見ている。私は、跡を濁さず社を離れた」
WPPの調査では、経費やその他の疑惑について立証するだけの証拠はない、と結論づけていた。
アレックス・バーカーは、この他にもディズニーや、マードック率いるニューズ・コーポレーションなどの記事を書いているが、調査したことに関しては、容赦なく書いている。
たとえばコロナ禍で半分の従業員が無給の休暇という状態で苦しんでいる中、経営陣の報酬がまったく下がっていないことについて書いた2020年4月27日の記事では、それに対する広報の冷酷なコメントをそのまま載せている。「上場会社や善管注意義務の定義をあなたは、よく調べなければならない」